優先権
ティンカーが、猛烈な速さで室内を飛び回る。
壁に沿って、素早く動き回ると、ティンカーの近くの壁が、次々と閃光を発した。プログラムの上書きをしているのだ。
──優先権、プレイヤー、タバサ上書き終了……。
タバサの頭の中に単調な声が聞こえてくる。
同じ声を聞いていたのだろう、玄之丞、知里夫、晴彦の三人も、顔を見合わせ頷き合った。
対決している二郎とシャドウは……と、そちらへ目をやると、何と二人は、部屋の中央の空間に浮かんでいた!
空中に浮かんだ二人は、怖ろしい形相でお互いを睨みつけていた。時々ふっと微かな身振りで、決闘が続いていることを見せ付ける。ぐっと二郎がシャドウに向け、指先を向けると、シャドウの全身に何か目に見えない衝撃が走る。髪の毛が逆立ち、苦痛に顔が歪む。お返しに、シャドウもまた二郎に向かって目に見えない攻撃を加えている。
「どっちが優勢なのかしら?」
タバサの呟きに玄之丞は首を捻った。
「判らん! どっちにしろ〝世界〟の法則を歪めている戦いらしいから、切った張ったの戦いではなさそうだな。さて、どうやって加勢すればいいのだろう?」
タバサは呆れて玄之丞の顔をしげしげと眺めた。
「だって……あんなに自信たっぷりに!」
玄之丞は、にっと笑い掛ける。
「判らんものは、しかたないじゃないかね? まあ、無勝手流にやるさ! それより、修正ディスクを何とかせねばな!」
忘れていた! 修正ディスクを持つゲルダを見ると、二郎とシャドウの戦いにすっかり見とれ、ポカンと馬鹿のように口を開き、上を見上げている。
チャンス! と見て、タバサは頭を低くしてゲルダに突っ込む。無論、勝算はない。ティンカーの上書きによる何かアクシデントが起きることを期待しての行動だ。