アイディア
「ね、何とかできないの?」
ティンカーの表面から、小声のきんきん声が聞こえてくる。
「無理です! ディスクがなければ、プログラムのデバッグはできません!」
ティンカーの鏡のように滑らかな金属面に、タバサの必死の表情が映し出されている。
「そのデバッグとかいうの、何だか知らないけど、他に何かできないの? あんたは」
困ったように、ティンカーは金属の身体を捻じって、ゴルディオスの結び目のような形になる。
「卒辞ながら、吾輩一つ提案があるのだが」
なぜか玄之丞が、悠然と話し掛けた。
タバサは玄之丞に喧嘩腰に声を掛ける。
「なによっ!」
玄之丞は、ますます呑気な口調になった。
「あの二人がしている戦いだが、確か〝世界〟の法則を変える、とか申しておったな」
タバサは改めて玄之丞の顔を見詰めた。妙に自信ありげである。
「それで?」
玄之丞は頷いた。
「その〝世界〟の法則を変える、というのは、あの二人だけにしかできないものかね?」
ティンカーは黙り込んだ。何か考え込んでいるのか、表面に目まぐるしく、様々な記号や、数列が走っている。
ようやくティンカーは頼りなげな口調で、話しはじめる。
「それは……ここは【パンドラ】プログラムの中枢ですから、デバッグは無理でも、上書きならできるでしょう……。あなたがたのデータを書き込んで、優先権を与えれば、二郎とシャドウの二人と同じことが……」
「それだ!」と、玄之丞は、ぱちりと指を鳴らした。
「それができれば、我々も二郎の戦いに加勢ができる!」