ティンカー
ぶるぶるっ、と二郎の上着のポケットが震える。タバサと名乗った少女は、一歩びくっと飛びのいた。
「な、何なの?」
「こいつだ……」
二郎はポケットの上蓋を開いた。中から、テニス・ボールほどの大きさの、真鍮製の金属球がぴょん、と飛び出した。
金属球は、ふわりと浮かぶと、表面に細かな漣を立て、きんきんとした声を上げる。
「二郎さま! 【ロスト・ワールド】に動きがあります!」
「なにっ!」
二郎は思わず鋭い声を上げていた。ぐっと金属球に顔を近づけ、囁いた。
「どういうことだ? 動きとは、何だ?」
「【ロスト・ワールド】の一部が他の〝世界〟に接触を試みているようです。もしかすると〝門〟が造られるかも知れません」
「本当かっ!」
二郎は大声を上げた。その声に、周りのプレイヤーが、ぎくりと立ち止まる。慌てて二郎は背中を向けた。
「どこだ、接触が始まるのは、どの〝世界〟なんだっ!」
金属球は興奮したかのようにぷにぷにと変形しながら上下に跳ねた。
「【蒸汽帝国】です! あらゆる〝世界〟で最大、最古のあの【蒸汽帝国】です! 二郎さま、これは、ビッグ・チャンスですよ! もし接触が起きれば、次郎さまの念願である【ロスト・ワールド】攻略のチャンスでしょう?」
何度も二郎は頷く。
「そうだ……これはチャンスだ。二度とない、チャンスかもしれん……」