法則
シャドウが空中に浮かんでいる。真っ白な髪の毛が、吹き付ける風で別の生き物のように蠢いている。
しかし一同が驚愕したのは、シャドウの手に握られている、エミリー皇女の姿であった。二人とも、天井を突き抜け、出現していた。
二郎の姿を認め、シャドウは高々と声を上げた。
「客家二郎! 修正プログラムは、どうした? 持ち込めば、おれの感知するところとなる。そこで多分、他の〝世界〟に残し、〝門〟から手に入れるつもりだったのだろう? 残念だったなあ! 【蒸汽帝国】に繋がる〝門〟は、すでに閉じられているぞ!」
シャドウの言葉に、二郎はぐっと息を詰め、拳を握りしめる。
そんな二郎の表情を楽しむかのように、シャドウは皮肉な笑みを浮かべている。シャドウの手に握られているエミリー皇女を見上げ、ゲルダは叫んでいた。
「皇女さまを離せ!」
シャドウは眉を上げた。
「いいのかな? おれが手を離すと……。そら!」
ぱっと手を離す。すとん、とエミリーの身体が落下する。わっ、とゲルダはエミリーを受け止めるべく、大股で走り寄った。
シャドウは手を振った。
エミリーの落下が、唐突に止まる。空中で浮かんだまま、エミリーは、じたばたと手足を動かした。シャドウが指を上げると、エミリーの身体は再び上昇していく。同じ高さに上昇したところで、シャドウは腕を伸ばし、再び腕をがっちりと掴んだ。
嬲っている。
ゲルダは悔しさに、だん! と、足踏みをする。
「どうして、あんなことができるの?」
タバサは二郎に顔を寄せ、囁いた。二郎はシャドウを見上げたまま口の端で囁き返す。
「ここが、シャドウの作り上げた【ロスト・ワールド】だからだ。この〝世界〟の法則は、奴の思いのままなんだ! 畜生、修正ディスクが手に入れば……」