出口無し!
「何いっ!」
ガントは二つの目玉をぎょろりと飛び出さんばかりに見開き、タークの言葉を確かめようと、忙しく前後を確認する。
「王宮は……シティは、どこに消えた? ここは、どこなのだ?」
怒鳴り散らすガントに向かって、一人の兵士が泡を食って近寄ってくる。
「閣下! 我々の武器が突然、機能しなくなりました!」
敬礼もそこそこに、前置き抜きに報告する。
兵士の報告に、ガントは立ち尽くした。
ぱくぱくと口だけが忙しく蒸汽ピストンのように開閉するが、唇からは何も言葉は発せられない。
恐らく、ガントは思いつくありとあらゆる悪態をついているのだろうが、禁止語なので声にならない。
猛牛のような唸り声を上げて、ガントは目の前の兵士の武器を取り上げた。素早く棹桿を引き、銃弾を送り込む。引き金を引き絞る。
がちっ! と撃鉄が食い込む音がしたが、何も起きない。
あれ程の喧騒が、今は欠片も聞こえていない。兵士たちは青ざめた顔を見合わせ、呆然と立ち尽くしていた。運転手が顔を上げた。
「閣下! この車も動かなくなりました!」
「まさかっ? 燃料はあるのか?」
ガントの問い掛けに、兵士は激しく首を振る。
「いいえ、燃料ではありません。肝心の、蒸汽ボイラーの火が消えてしまったのです! 理由は判りません。突然、総ての蒸汽動力がゼロになってしまいました!」
ガントとタークは目を見合わせた。
タークの凝視に、ガントは目を逸らす。
タークは声を震えるのを必死に押さえ、ガントに語りかけた。
「あれ程はっきり言ったではないか! 客家二郎は【ロスト・ワールド】の〝門〟は、罠の可能性が高いと! これは、罠だ!」
ガントは、もごもごと口の中で答える。
「では、ここは、どこなのだ? 我々は、どこにいるのだ?」
タークは目を細める。
「決まっているではないか。判らんのか?」
ガントはぐい、とタークに顔を近づける。
「貴様には判っているとでも?」
「ああ、判っているさ」
タークは深く頷いた。
「我々は【ロスト・ワールド】に引き込まれたのだ。ここは【ロスト・ワールド】だよ」