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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
【蒸汽帝国】軍侵攻!
161/198

 もはや統制など、どこにも見当たらない。

 兵士たちは各々、煮えたぎる憎しみと、勝利への確信を胸に、我先に階段を登っていく。


「馬鹿者! 列を乱すな! 勝手に動くんじゃない!」


 喧騒の中、ガントは顔を真っ赤に染め、怒鳴り散らすが、生憎と、唯の一人も聴いちゃいない。

 ガントは怒りに、下唇をぎりぎりぎりと噛みしめた。

 隣で座っていたタークは「実戦を経験していない軍隊の弱点が顕わになったな!」と、どうにか冷静に観察していた。


 ガントは運転手に怒鳴り散らした。


「糞! こうなったら、おれたちも続くぞ! 全速力だ!」


 運転手の兵士は一つ頷くと、アクセルを全開にさせた。弾かれたように司令無蓋車が飛び出し、階段が見る見る近づいた。


 どすん!


 車の前輪が階段にかかった。


 ぎゅるぎゅるぎゅる……!


 無蓋車の蒸汽エンジンは出力を最大に上げ、全ての車輪に動力を供給する。

 さすが軍用である。蒸汽の百足ほどではないが、無蓋車は階段を、がたごとと車体を揺らしながらも、着実に登攀していく。

 無数の兵士たちと蒸汽百足たちに揉みくちゃにされながらも、ガントとタークを乗せた司令無蓋車は、急角度の階段を攀じ登っていく。


 大半の兵士たちが階段に取り付いた頃であろうか。突然、後方から何かが閉ざされたような「ぴしゃんっ!」という音が響いた。


 タークは鋭く首を回し、後方を確認する。


 何もない!


 王宮の建物も、シティの偉容も総て、消えうせていた。

 あるのは、白く輝く階段が闇に溶け込んでいる光景だけである。振り仰いで階段の上を見上げても、同じ景観があるだけだ。


「ガント、我々は閉じ込められたぞ! これは、罠だ!」

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