音
もはや統制など、どこにも見当たらない。
兵士たちは各々、煮えたぎる憎しみと、勝利への確信を胸に、我先に階段を登っていく。
「馬鹿者! 列を乱すな! 勝手に動くんじゃない!」
喧騒の中、ガントは顔を真っ赤に染め、怒鳴り散らすが、生憎と、唯の一人も聴いちゃいない。
ガントは怒りに、下唇をぎりぎりぎりと噛みしめた。
隣で座っていたタークは「実戦を経験していない軍隊の弱点が顕わになったな!」と、どうにか冷静に観察していた。
ガントは運転手に怒鳴り散らした。
「糞! こうなったら、おれたちも続くぞ! 全速力だ!」
運転手の兵士は一つ頷くと、アクセルを全開にさせた。弾かれたように司令無蓋車が飛び出し、階段が見る見る近づいた。
どすん!
車の前輪が階段にかかった。
ぎゅるぎゅるぎゅる……!
無蓋車の蒸汽エンジンは出力を最大に上げ、全ての車輪に動力を供給する。
さすが軍用である。蒸汽の百足ほどではないが、無蓋車は階段を、がたごとと車体を揺らしながらも、着実に登攀していく。
無数の兵士たちと蒸汽百足たちに揉みくちゃにされながらも、ガントとタークを乗せた司令無蓋車は、急角度の階段を攀じ登っていく。
大半の兵士たちが階段に取り付いた頃であろうか。突然、後方から何かが閉ざされたような「ぴしゃんっ!」という音が響いた。
タークは鋭く首を回し、後方を確認する。
何もない!
王宮の建物も、シティの偉容も総て、消えうせていた。
あるのは、白く輝く階段が闇に溶け込んでいる光景だけである。振り仰いで階段の上を見上げても、同じ景観があるだけだ。
「ガント、我々は閉じ込められたぞ! これは、罠だ!」




