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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
【蒸汽帝国】軍侵攻!
160/198

突撃!

 渦巻きは、さらに巨大化していた。


 すでに【蒸汽帝国】の〝門〟がある、ビクトリア駅に半分くらい、達している。渦巻きの中心には、白く発光する階段が天に伸び、黒々とした闇に溶けている。


 かつて帝国劇場があった場所には、今は奇妙な結晶がびっしりと天を刺して伸び、華麗な色合いの石畳は、ぬめぬめとした質感の滑らかな丘に変わっている。


「学者の言うには、ここはすでに【ロスト・ワールド】の一部になっているという話だ。あの結晶の森も、丘も、あちら側の〝世界〟と同じらしい」


 司令車の後部座席から、ガントは王宮前広場を指差し、解説した。口調は忌々しげで、表情は険しい。

 隣席のタークは、無言で深く頷いた。


 軍隊は整列を終え、すぐにでも動き出す寸前であった。司令車に乗ったまま立ち上がったガントは、思い切り息を吸い込み、叫んだ。


「全軍、侵攻せよ!」


 演説も何もない、素っ気無い一言であったが、ガントの一声に、蒸汽軍は一個の生き物のように整然と動き出す。


 前列の蒸汽百足の隊列が、無数の金属の足を、がちゃがちゃと騒がしく音を立てながら進み始める。ボイラーは一杯に出力を上げ、百足の全身からは盛んに白い蒸汽が噴出していた。

 百足の後方からは、徒歩の兵士たちが緊張した表情で歩き出す。


「マスク、下げろーっ!」


 小隊長たちが、部下に向かって叫ぶ。命令に、兵士たちはヘルメットの覆いを下げた。


 兵士たちの姿は、奇怪な、ロボットのような印象に変わる。背中には小型蒸汽供給装置を背負っている。装置からは太いパイプが手にした蒸汽突撃銃に接続され、恐るべき威力を秘めた蒸汽弾を発射する準備ができている。


 急な階段を、蒸汽百足がするすると登っていく。後から兵士たちが、軍靴の音もけたたましく、大股で続いた。


 突撃喇叭(ラッパ)が静寂を切り裂いた。


 喇叭の音に、兵士たちは一斉に「うわーっ!」と喚声を上げた。

 興奮に、兵士たちの頭からは、今まで受けた訓練や規律は、焼けたフライパンの上の一滴の水のように、呆気なく蒸汽と化していた。

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