通告
帝国軍の行進を前に、ターク首相は唇を噛みしめた。
ガント元帥は、遂に首相の命令を待たず、独断で軍を率いて【ロスト・ワールド】に侵攻を開始するつもりだ!
堪らずタークは、王宮を飛び出した。
するとタークの目の前に、数人の、完全武装の兵士が立ち塞がった。兵士の声は顔を覆うマスクで、くぐもって聞こえていた。
「ターク閣下! 貴殿は王宮から離れてはならぬ、と元帥閣下の命令です。すぐ王宮内にお戻り下さい」
口調は丁寧だが、手には蒸汽突撃銃を抱えている。銃口は向けられていないが、タークがあくまで押して通ろうとすれば、向けるだろう。
タークは、ぐっと拳を握りしめる。
「わしは首相だぞ!」
兵士は頷いた。
「判っております。しかし、閣下の命令なのであります」
「そのガントに命令を下すのは、わしなのだ! わしの命令が、元帥の命令に優先するということは、子供でも判る理屈ではないか? さあ、そこをどくのだ!」
「いえ、いけません!」
兵士は頑として聞き入れない。兵士を睨むタークの額から、大粒の汗が噴き出した。
パレードは延々と続き、豪華な装備の、司令専用の軍用無蓋車が近づいてくる。軍用無蓋車に乗る元帥の姿を見て、タークは叫んだ。
「ガント! おれだ! 止まれえ!」
自分でも驚くほどの大声が出た。
無蓋車で上機嫌でいたガントは、タークの方向に顔をねじ向ける。たちまちガントは思い切り渋面を作り、渋々ながら手を挙げ、行軍を停止させた。
小山のような体躯が動き、ドアが開き、ガントの靴底が地面を踏みしめる。
のし、のし……とガントの巨体が王宮前の広場を横切り、出口前で睨みつけるタークの前に近づいた。さっと軽く手を振り、タークの前に立ち塞がっていた兵士たちを去らせると、ガントは重々しく口を開いた。
「ターク、諦めろ。作戦は始動したのだ。もう、お前には止められん」
「国会の承認なしだぞ! これが済んだら、ガント、お前は罷免だ! いや、もっと悪い結果になるかもしれん」