錯誤
ぎくりと、エミリーは硬直した。よろよろと立ち上がり、手を空間に伸ばす。
「その声は、シャドウね! あたし……何も見えない! ここは暗闇じゃなくて、あたしの目が見えなくなったの?」
シャドウは感嘆した。
驚くべき推理力。混乱し、恐怖に襲われているはずなのに、冷静に今の状況を分析している。
「そうだ。だが、おれが、お前の目を元通りにしてやる!」
ぱちり、と指を鳴らす。
「はっ!」とエミリーは息を吐き出した。顔を手の平で覆い、眩しさに目を瞬く。ゆっくりと周囲を見回し、視線がシャドウに向かった。
「シャドウ……あなた……」
シャドウは立ち上がり、じっとエミリーの目を見つめた。エミリーは目を逸らすことができず、じっと見つめ返す。
「もうすぐ、お前は〝ロスト〟する。怖いかね?」
緩やかにエミリーは首を振った。滑らかな金髪の髪が、流れるようにふわりと揺れた。ぼうっとした表情のまま、憧れるような目つきになる。
「怖くはないわ……。でも〝ロスト〟すると、どうなるの?」
あどけない、童女のような声音になっている。
シャドウは頷いた。
「お前は、自由になる。お前の本当の実体が縛られている現実世界の軛から離れ、ここ【ロスト・ワールド】で、女王として君臨するのだ! どうだ、素晴らしいじゃないか?」
「自由に……あたくしが、自由に……?」
小首を傾げる。
シャドウは眉を僅かに顰めた。反応が違う! すでにこの段階では、エミリーはシャドウの言葉に全面的に同意しなくてはならないのに!
エミリーの頬に血が昇り、目が見開かれた。
「違うわ!」と叫ぶ。
「あたしは【蒸汽帝国】の皇女です! あたしの戻る所は【蒸汽帝国】しかありません!」
「エミリー!」
シャドウは絶叫した。
馬鹿な! こんなはずでは……!