仕上げ
パレードを追い散らかし、シャドウはぐるりと自分の居城に向き直った。
するすると巨大化した体が縮み、元の大きさに戻る。すでにギャンたちは、這々の体で逃げ帰り、辺りには誰もいない。
シャドウは「くくっ!」と小さく声を発し、唇を持ち上げて笑いの表情を形作った。
今の騒ぎで二郎の奴は、内部に潜入したはずだ!
いよいよ、決着をつける時が来た。
悠々とした歩みで自分の居城に向かい、とんと地面を蹴って、空中へ浮かび上がる。
ここは、シャドウ自ら作り上げた【ロスト・ワールド】だ。物理特性など、簡単に無視できる。二郎は外部からのプレイヤーだから、他のプレイヤーと同じ条件でシャドウと戦わなければならないのだ。
二郎の狙いは、シャドウの所持する〝パンドラ〟初期バージョンに決まっている。
恐らく、修正プログラムを持ち込み、バグを修正するつもりだろう。そうなれば【ロスト・ワールド】は他の〝世界〟と同じになり、プレイヤーは外の〝世界〟に自由に出入ができる状態になる。
しかし、二郎の狙いを許す訳には断固いかない!
プログラムが修正されれば、もうシャドウの思い通りに【ロスト・ワールド】を操れなくなる。
すーっ、と空中を立ったまま居城へ向かい、壁に空けられた窓から内部へと降り立つ。
素っ気無い室内に、エミリー皇女が床に倒れている。すでに気絶しているようだ。長い金髪が、金色の波のように広がっている。
シャドウはエミリーを閉じ込めている透明な壁を腕の一振りで消去し、倒れている皇女の横に歩み寄った。
膝を突き、背中に手を滑り込ませ、上半身を起こし、立てている膝で支えてやる。エミリーの顔を覗きこみ、囁きかけた。
「エミリー……皇女……おれだ、シャドウだ! 目を覚ませ!」
ぱちぱちとエミリーの瞼が痙攣し、真っ青な瞳が見開かれた。きょろきょろと辺りを見回し、恐怖の表情を浮かべる。
「誰? 誰なの?」
シャドウは勝利感に顔を綻ばせた。完全にエミリーは他者に依存する心理状態になっている。もう、シャドウの思い通りになるだろう。
ぶるぶると震える手で、エミリーは両耳を抑えた。
「この声は、何? 残り時間が一時間を切った……って、何? ねえ、この声を止めて!」
シャドウは優しげな声を作った。
「もうすぐ声は止まる。お前が〝ロスト〟すればな……」