罠
「大丈夫かしら、あのギャンって人?」
二郎がタバサに並んで見物しながら、口を開いた。
「あいつなら、心配ないさ。シャドウが暴れこんだ時に、真っ先に逃げ帰っている。それより、そろそろシャドウの奴、こっちへ注意を向ける頃だ」
タバサは二郎を睨んだ。
「あんた、シャドウのことなら何でも知っているのね!」
二郎は顔を背けた。
「まあな。何しろ、あいつは、おれの分身だから。どっちにしろ、おれたちが易々と忍び込めたのも、奴がわざと誘い込んだと言える」
二郎の言葉に、ゲルダは一歩、憤然と前へ進み出た。
「わざと? それでは、罠ですか?」
「そうさ。おれが【ロスト・ワールド】に潜入したことは、奴もとうに気付いているはずだ。おれが何を狙っているかも承知の上で、ギャンの騒ぎに乗って見せたんだ。お互い、狸と狐の化かし合いってこと! どっちが狸か、狐か……どっちが相手をうまく騙せるか……これは、そんな勝負なんだ」
淡々と語る二郎の言葉に、タバサはくらくらと目が回る思いだった。タバサ以外の、全員は二郎の説明に、平然と頷いている。
ぴょん、と二郎のポケットからティンカーが飛び出した。金属球の表面に漣が波立ち、御馴染みのきんきん声で話し掛ける。
「二郎さま! 下の階から【蒸汽帝国】に出現した〝門〟と同じ空間特性を感知!」
二郎は鋭くティンカーに向き直る。
「あの〝門〟があるのか?」
ティンカーはぶんぶんと二郎の周りを飛び回った。興奮しているのか?
「そうです! 恐らく【蒸汽帝国】に直結していると思われます! あっ!」
ティンカーの形が変化し、無数の棘が飛び出したハリセンボンのような形状になる。
「大量の質量の移動を感知! もしかしたら【蒸汽帝国】から侵入があるのかも!」
「何いっ!」と二郎は大声を上げた。
さっとゲルダを見つめ、叫ぶ。
「危惧していたことが現実になった! 奴ら、辛抱できず、向こうからこっちへ来る!」
ゲルダは蒼白になり、拳を握りしめる。