挨拶
シャドウは、居城から数歩の空間に、何の支えもなく、空中に浮かんでいる。
僅かな微風に、シャドウの長い髪がふわふわと棚引いていた。シャドウはパレードの先頭に立っているおのれの姿を真似した人形を見て、顔を顰めた。
「そいつは、おれか? 何という悪い冗談だ。ギャンよ、あんたはこんな悪趣味な冗談を喜ぶような、低級な人間ではないと思っていたが、見損なったな」
ギャンは宮廷の挨拶を真似、大きく腕を振って膝を屈し、頭を下げる。
「いえいえ、そのような意図など毛頭ありませぬ。我々〝ロスト・シティ〟全員の、シャドウ様への心からの敬意を表したく、ただその一念のみで御座います」
立ち上がると、さっと手を上げる。半裸の女性たちが小走りに前へ出、シャドウへ愛の賛歌を歌い上げる。内容は悩ましく、露骨なものだった。半裸の腰をくねくねと動かし、挑発的な目付きで色っぽく誘う仕草を見せる。
シャドウの眉が見る見る険しくなり、怒りの表情を浮かべた。
「やめろ! 貴様ら……おれを虚仮にしおって……!」
咆哮し、両手を上げ指先を猛禽のように曲げると、指先から真っ赤に燃える炎を噴き出させる。炎は矢となり、張りぼてのシャドウの人形を目掛け、ミサイルのように飛んだ。
ずばーん! と物凄い音響を立て、シャドウ人形は一気に燃え上がった。
操演していたプレイヤーは、燃え上がる火炎に慌てて棒を離し、逃げ惑う。
「お前ら、目障りだ! 今まで目溢しをしてやったが、もう我慢ならん!」
シャドウはぐっと全身に力を込めると、ぐーっと身体を巨大化させた。
ずしん、と音を立てシャドウの両足が地面を踏みしめた。今まで張りぼての人形が存在した場所に、今度は本物の巨大化したシャドウが立っている。
悲鳴がパレードの参加者から上がった。
怒りの表情で突き進むシャドウから必死になって遠ざかり、町へと逃げ帰る。
ギャンは顔色を変え、くるりと背を向け逃げ出す。ちらりと背後を振り返り、二郎の隠れている方向を見やる。
唇が歪み、皮肉な笑みが浮かんでいた。
まるで「うまくやれ!」と二郎に語り掛けているようだった。