法則
「見ていてご覧」
少女は二郎の指し示した方向を見つめた。
一方はファンタジー世界からやって来たと思しき、エルフの姿で、もう一方は日本の戦国時代からのプレイヤーらしい。
二組のプレイヤーは、真っ直ぐ前を見詰め、わき目も振らず大股で歩いてくる。当然、二組はそのまま歩けばぶつかる軌道をとっている。
二組が近づき、接触した!
が、二組は何事もなかったかのように、するりとお互いの身体を突き抜け、さっさと立ち去ってしまった。まるで空気を突き抜けるかのようだった。
二郎は肩を竦めた。
「ほら、あの二組、まったくお互いを避けようとしなかったろう?
この【大中央駅】では、物理計算を一部しか行っていない。なにしろ現実世界から常時、数十億の人々がアクセスしているからね。いちいち身体がぶつかる処理をしていたら、たちまち大混乱だ。
だからここでは、他人を避ける必要はないのさ。君はここまで歩いてくるとき、無意識に他人の身体に触れないようしていたね。だから一目で初心者だって判ったのさ」
少女は、考え深げな表情を浮かべる。
「それであたしを……。ふうん、成る程。で、どうして声を掛けたの。さっき、案内してやるって言ってたわね。何が目的?」
ぐっと両足を踏ん張り、腕組みをする。
二郎は大きく両腕を広げた。
「まず第一に、この仮想現実には、いろいろな罠があるからさ!
おれは、そういった罠に初心者が陥らないよう、注意してやっている。それが、おれたち、長く仮想現実で過ごしている先輩としての義務だからだ。
それと、君がおれの指導でこの仮想現実に習熟すれば、いずれおれを助けてくれる片腕になってくれるんじゃないか、と期待してのことだ」
「他にもいるの?」
「多くはないがね。ものになるのは、千人に一人、いや一万人に一人かもしれない。しかし、おれは諦めるわけにはいかない。目的があるからだ」
少女の目が細められる。
「目的って?」
二郎は真面目な口調になった。
「【ロスト・ワールド】って聞いたこと、ないかね? おれは、【ロスト・ワールド】に、一緒に探検に出掛ける仲間を探している」