綾取り
二郎は、じっと腕組みをしたまま椅子に腰掛け、真っ直ぐ前を見たまま、微動だにしない。
いかにも全身に緊張が溢れているようで、タバサは何度か声を掛けようか迷ったが、結局何もできずに、溜息を吐くのが関の山だ。
真葛三兄弟の長兄である玄之丞は、ゆったりと弛緩した表情で、葉巻を燻らせている。
時折、口をポカンと開き、煙の輪っかを吐き出している。煙の輪は、驚くほどしっかりと形を保ったまま天井に向かい、天井にぶち当たると、ほわんと消えていく。その様子を、玄之丞は興味津々といった様子で、まじまじと見つめている。まったく、何が楽しいのか。
知里夫はくっちゃくっちゃと口の中でガムを噛んでいる。時々「ぷーっ」とガムを膨らませ「ぺちん!」と破れたやつを、また口の中に戻して噛み続けた。
晴彦は、いやに熱心に綾取りを続けている。
真剣な目つきで、エッフェル塔とか、富士山の形に紐を組み合わせ、一つ完成するたびに、輝くような笑顔を見せる。
タバサと目が合い、晴彦は手にした綾取りを突き出した。タバサに相手して貰いたいのだ。
退屈しのぎにタバサは「いいわよ」と答え、晴彦の前に椅子を置いて向き合った。
差し出された綾取りを受け取ると、晴彦は目も止まらぬ素早さで紐を組み合わせる。紐は白と黒の二本の色でできている。目まぐるしく紐が組み合わされ、ある形を作っていく。
作り出される形に、タバサは目を見張った。
シャドウの顔が作り出されていた。顔は黒く、髪の毛は白い。晴彦はタバサから綾取りを受け取ると、両目の部分に自分の目を押し付け、タバサの顔を覗きこむ。口の形がニヤニヤ笑いを形作っているのが不気味である。
「あんた、シャドウを知っているの?」
晴彦は首を左右に振って否定した。くるりと綾取りを引っくり返すと、白と黒の糸が反転していた。二郎を見やる晴彦の目の動きにタバサは呟いた。
「それ、二郎の顔じゃない?」
晴彦は頷く。
その時、ギャンが部屋に入ってきた。音もなく、影のように滑り込んだギャンは、かったるそうに呟いた。
「準備完了だ……。ちょっとした騒ぎを起こす。あとは、あんたらの仕事だ……」
それまで身動きもせず椅子に腰掛けていた二郎が、かっと目を見開く。ぐっとギャンの顔を見上げ、強く頷いた。
「恩に着るぜ、ギャン!」
ギャンは薄く笑った。
「幸運を……。それとも悪運かな?」
二郎は肩を竦めて立ち上がった。
「どっちでも構わんよ。さあ、行くぞ!」
二郎に促され、一同は神輿を上げる。