拡大
タークの唇が震えていた。ぷい、と元帥は踵を返し、無言で執務室を飛び出した。もう、言葉を遣り取りする段階ではない、と判断したのである。
「ガント!」と背中からタークの焦った叫びが聞こえてくるが、元帥はもう決意を固めていた。
王宮から出てくると、向こうからあたふたと観測所の要員が駆け寄ってきた。
ガントの姿を認め、転げるように近寄ってくる。
「どうした?」
咆哮すると、観測員の顔色が真っ青になっているのに気付く。
「何か渦巻きに変化が?」
声を低めて質問すると、観測員たちは一斉に強く頷いた。顔を上げ、広場の渦巻きを見上げたガント元帥の二つの目玉が、飛び出るほど極限まで見開かれる。
渦巻きは、さらに拡大していた。
たった数分、目を離した隙に、すでに二倍……いや、三倍は拡大している。
「拡大のスピードが上がりました。先ほどまで拡大しても、それは注意しないと判らないほど小規模なものでしたが、どういう訳か一気に、あの大きさに。今も拡大の速度は、維持したままです」
唸り声を上げ、元帥は渦巻きを見つめる。確かに、見ているうちに渦巻きは、はっきりと大きくなっているのが確認できる。大きくなって、しかも途中から向きを変えている。
その先は……。
「なんと! わが【蒸汽帝国】の〝門〟を向いているではないか!」
観測員たちは一斉に頷く。
「その通りです! あの渦巻きは【蒸汽帝国】の〝門〟を目指しているのかも……」
「なんと言うことだ……」
ガントは呆然となった。はっ、と我に返り、観測員たちに向き直る。
「では、渦巻きが〝門〟と接触するのか? どのくらいで接触は、なされる?」