観測班
伍長の報告に、ライス少尉は顔を上げ、眉を持ち上げた。
「渦巻きが……大きくなっている?」
二十歳をそう過ぎてはいない若々しい顔つきで、蒸汽軍士官学校を首席で卒業して、すぐ少尉に任官している。血色のいい肌に、バターのような色合いの金髪をしている青年だ。少々お坊ちゃま臭いところがあるが、伍長の直属上官である。
広場には天幕でできた、応急の観測所が設置され、常に渦巻きを観測している。最新の機器で測量を続け、あらゆる数値が記入されている。観測要員たちをちらと見やり、少尉は再び伍長に注意を戻した。
伍長は直立不動になって叫んだ。
「そうなのであります! 不肖、このバルク伍長の愚考いたすところ、あの渦巻きは刻々と勢力を拡大しているのでは、と思い、報告に上がりました」
伍長の大声に、少尉は微かに眉を顰めた。
観測要員たちも、一斉に顔を上げ、伍長に視線を浴びせている。
伍長は俄かに注目を浴び、顔を火照らせた。
「少尉、伍長の報告は正しいよ。確かに渦巻きは、徐々にだが、直径を拡大している」
観測要員の一人が、伍長の言葉に同意してくれた。バルクは、ほっと微かに緊張が解れるのを感じた。
少尉は唇を噛みしめ、観測員に向き直った。
「なら、なぜ教えてくれなかったのです。伍長がわざわざ持ち場を離れ、報告する前に」
観測員は肩を竦めた。
「これが何を意味するのか、判断する材料が揃っていなかったのでね。一応、我々は慎重を期することを最優先するのだ」
観測員の言葉に、少尉は顔を背けた。
それ故、少尉の怒りの表情は、伍長だけにしか見せてはいない。
伍長は内心、少尉の怒りに同意していた。