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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
暗闇の中で……
136/198

感覚遮断

 エミリーが手足を投げ出し、床に横たわるのを見て、シャドウは、北叟ほくそ笑んだ。


 もうすぐだ……もうすぐ、エミリーはシャドウの言いなりの心理状態になる……。


 シャドウの居城、最上階の一室に、エミリーは各辺十メートルの立方体の空間に閉じ込められていた。

 壁は透明で、シャドウからはエミリーの姿がはっきりと見てとれる。

 エミリーを囲む透明の壁は、ガラスではなく、空間を一時的に通行不可能な領域にさせた、シャドウ特性の檻である。


 エミリーの視覚は、シャドウによって完全に遮断され、全く光を感じることはない。つまり、エミリーにとっては、光のない闇にいるのと同じである。しかし、シャドウには、エミリーの姿は完璧に見えている。


「この音を停めて……停めてよう……」


 エミリーは虚ろな表情のまま、呟きを繰り返している。


 音!


 強制切断を知らせる警告音である!

 エミリーは知らないのだ。もっとも、生まれてから以降ずっと仮想現実のみで生活していたのである。知らないのも無理はない。


 やがて警告音は、残り時間を知らせる、秒読みに変わる。エミリーにとっては何が残り時間なのか判らないだけに、恐怖は一層ぐんと募るはずだ。


 そうなったらいよいよ、シャドウがエミリーに語りかけるのだ。自分を信じよ、崇めよと。暗闇と、完全な静寂の中、聞こえてくるシャドウの声に、エミリーは絶対に抵抗できない。


 これは「感覚遮断」と呼ばれる心理学の、洗脳手法である。


 完全な暗闇、静寂に置かれた人間は、最初は混乱と困惑に襲われるが、やがて無力感に支配される。無力感はあらゆる心理的抵抗を突き崩し、この状態に達した被験者は、他者の洗脳に完璧に従うロボットとなる。


 エミリーを取り囲む透明な壁は、音も完全に遮断する。

 しかしエミリーの声は、シャドウには聞こえている。言わば音のマジック・ミラーなのだ。洗脳の時が来たら、シャドウは自分の声だけを通過させ、語りかけるつもりである。


 エミリーは、生まれ変わるのだ。

 仮想現実世界を支配する玉座に座る【ロスト・ワールド】の女王に!

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