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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
【ロスト・シティ】
133/198

作戦

 呆気に取られ、全員の視線が晴彦に集中する。晴彦は平然と、拳銃をコートに仕舞う。


「玩具のはずなのに!」


 ギャンが叫んだ。

マンガのキャラそっくりに、目が点になっていた。

 玄之丞は肩を竦める。


「晴彦に掛かったら、本物は偽物に、偽物は本物になってしまうのは、普通だよ」

 二郎は溜息をついて、感想を述べた。

「そりゃ、まるで仮想現実のことを言っているみたいだな」


 ギャンは二郎を見つめ、話し掛けた。

「それで、どういう作戦でシャドウと対決するつもりなんです? あなたが、今、対決する時期と判断した、最大の理由は?」


 二郎は口早に【蒸汽帝国】にシャドウが姿を現した顛末を説明した。


「あの時、シャドウは、その気になれば〝ゲート〟から【蒸汽帝国】に乗り込み、支配権を手に入れることもできた。だが、なぜか、シャドウはエミリー皇女を攫っただけで、あっさり引っ込んだ。なぜだ? なぜ〝門〟を作り出しただけで、満足したんだ?」


 二郎の問い掛けに、全員が無言で首を左右に振る。二郎は会心の笑みを浮かべた。


「なぜなら、それができなかったからだ! シャドウは〝門〟を通過できない。あの〝門〟は【ロスト・ワールド】の一部だが、あれ以上には外部に広げられない。今のうちは、の話だが」

 ゲルダは「今のうち?」と聞き咎める。


 二郎は頷いた。


「そうさ、今のうちさ! 【蒸汽帝国】に開けられた〝門〟は、まだ王宮前の広場を占拠する程度で済んでいる。だが、そのうち、どんどん影響範囲が広がり、遂には【蒸汽帝国】の〝門〟と繋がってしまう! そうなると、シャドウは念願の【大中央駅】を手に入れることができる。そうなったら最後、どんな攻撃も無力だ。だから〝今〟のうち、と言ったんだ」


 興奮のため、二郎の息は弾んでいた。

 ゲルダは首を傾げた。


「なぜ、広げることができないでいるのです? 〝門〟を広げることを妨げている要素は、なんです?」


 二郎はニヤリと笑った。


「おれが何のために、タークに留まるよう命令したと思う? 〝門〟を通過するなと念を入れた目的は?」


 ゲルダは目を見開いた。


「そうか! ハビタットを……」


「そうさ、あの時、軍隊が軽挙妄動して〝門〟に突進したら、ぱくりと罠が閉まって、軍隊の兵士が所持しているハビタットを吸い取られていたところだ。奴の狙いはそれ以外、何もない! 今はハビタットは、まだ充分シャドウの手に集まっていない。あと一息で、シャドウは【蒸汽帝国】全域を支配する影響力を手にするはずだ。その前に勝負を懸けないと!」


 二郎は手真似で、皆に集まるよう指示した。

 全員の顔が近づくと、二郎の声はひそひそ声になっていた。


「だから、おれたちがシャドウの居城へ侵入するため、奴の注意を引き付けて貰いたい。

 定番だが、混乱を引き起こし、奴の注意を引き付けた瞬間を狙って、おれが乗り込む。

 一瞬でもいい、奴の注意を引き付けられたら……いや、少なくとも、逸らすことができたら、望みはある……思いたい……!」

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