【八〇一】
ギャンは肩を竦めた。
「まあまあ、協力しないとは言っていない。わたくしも心ならず〝ロスト〟した身。現実世界には未練はないが、是非とも、本来の〝世界〟に返り咲きたいものですからね」
「本来の〝世界〟って?」
タバサが思わず尋ねると、ギャンは不思議な笑みを浮かべて見つめ返した。
「本来わたくしの所属すべき〝世界〟は【八〇一】です。わたくしは、あそこで夢のような日々を送っていたのです。それが【ロスト・ワールド】の罠に掛かり、こんな有様に……」
タバサの隣でゲルダが「ぷっ」と吹き出した。ゲルダの笑いに、ギャンは明らかに気分を害したようだった。
「何が可笑しいのです!」
「いや……」
ゲルダは呟き、首を振った。面白そうな目付きになって問いかける。
「あんたが腐女子だったとはね! 成る程、戻りたいはずですねえ」
口調には馬鹿にした響きがあった。
「【八〇一】って、まさか『やおい』のこと?」
タバサが口を出す。ギャンの片頬に薄く、血が昇る。
「なーるほど」とタバサは口の中で呟き、一人うんうんと納得して頷いた。十頭身の有り得ないほどのスタイル、背中で咲き誇る薔薇。何から何まで絵に描いたような、少女漫画のキャラクターである。
その時、拳銃を捻くっていた晴彦が天井に向け、引き金を引く。
だあーんっ!
物凄い轟音とともに、銃身からオレンジ色の火花が散る。金臭い火薬の匂いに、天井からばらばらと破片が落ちてくる。