一巻の終わり
ギャンと名乗った男の目が、テーブルの向こうに据わる二郎の顔に止まった。
驚きが、ギャンの顔に弾ける。長い手足を折り曲げるようにして、空席に座る。
「どういう風の吹き回しですか? 客家二郎とは、何とお珍しいお客人!」
二郎は、にやにや笑いを浮かべ、返事をする。
「シャドウと対決するため、来たんだ。いよいよ【ロスト・ワールド】の正常化に手を着けようと決意してね。あんたの助力を当てにしてやってきた。協力してくれないか?」
ギャンは両手を組み合わせ、目を光らせた。
タバサは、ギャンの目が光った瞬間「キラーン!」という効果音が、どこかで聞こえたような気がした。
「お断りします……。あなたのお手伝いなど、金輪際、断固として御免蒙りたい!」
「おいおい……」
二郎の両目が、驚きに見開かれる。
さっとギャンは右腕を振った。まるで手品のように、右手に拳銃を握り締めていた。
拳銃の銃口をぴたりと二郎の胸に擬し、ギャンは素早く忠告する。
「おっと! 動かないで下さいね。こいつは引き金が軽くて、あなたがちょっと動いた途端、間違えて撃ってしまうかも知れません。知っての通り【ロスト・ワールド】では倫理保護規定は働いておりません。もし撃たれたら、あなたでも冗談ごとでは済まなくなりますよ!」
二郎は両手を挙げ、口を引き結んだ。
食い縛った歯の間から、言葉を押し出す。
「ギャン……貴様!」
「客家二郎、一巻の終わり……かな?」
ギャンは銃口の狙いをつけたまま、薄い唇を持ち上げ、軽く笑った。