電脳盗賊
と、突如そこで〝門〟が開くと、中から見慣れない若い男が飛び出してくる。
柔らかな革のベストに、ぴっちりとしたパンツを穿き、足下は膝まで達する黒革のブーツで固めている。ブーツや、腰のベルトには何本も切れ味の鋭そうな短剣を装備し、胸からは様々な形の鍵がちゃらちゃらと音を立てている。
男は小粋な帽子を被り、帽子の縁には【盗賊ギルド】の紋章が飾られている。どうやらこの男は、電脳盗賊の一人らしい。帽子の下の面長の顔は、どことなく狼を思わせる。やや前屈みの姿勢で、油断無さそうな目の光が、こちらを窺っている。
男は、あなたに気付き、にやりと皮肉な笑みを浮かべるだろう。じろじろと不躾に、あなたの全身を観察し、口を開く。
「初心者かね? ちょうど良い。この先の〝世界〟は、プレ・インカのティティオ・ワカンの月の大ピラミッドがある。お望みなら、おれが案内してもいいぜ。どうする?」
あまりに早口に捲し立てられ、あなたは戸惑っているようだ。あなたの戸惑いを見て取り、男は肩を竦めた。
あなたは、くるりと背を向け、もう一度、案内柱に向かう。もう少し、穏やかな、安心できそうな〝世界〟を探すつもりか?
それがいい。
ここは仮想現実。初心者にも、ベテランにも、どんな相手にも満足できる、あらゆる〝世界〟が広がっているのだ。