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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
輪廻転生
122/198

 気球は緑色の雲が漂う高度まで上昇した。雲を見上げ、タバサは眉を寄せる。


「何だか、雲に近寄っているみたい」


 タバサの言葉通り、気球は自らを雲に潜りこませた。ずぼり、と気球部分が雲に突っ込む。

 緑色の霧の中で気球は、ふわん、ふわん……と盛んに透明な膜を膨らませたり、縮めたりしている。


「食事中なのです」


 ケストが満足そうな表情で答えた。

「食事中? 雲を食べているの?」


 ケストはタバサに顔を向け、説明した。


「この雲は、いわゆる現実世界の水蒸気の雲ではなく、まあ、言ってみればプランクトンの固まりみたいなものです。気球は空で生まれ、育ち雲の中で成長します。ほら!」


 ケストはタバサの顔を指差す。


 緑色の霧の中、タバサの目の前を、注意して目を凝らさないと見分けられない透明な何かが横切った。まるで石鹸泡のように儚げで、薄い小さな何か。

 思わず指を一本上げ、触ろうとした。

 ケストは瞬時に押しとどめる。


「触らないで! 破れてしまいます。これは、気球の幼生なんです!」


 言われてよく見れば、確かに気球と相似形をしている。丸い気嚢部分に、小さな籠部分が付いている。小さな気球は、タバサの息を感じ、ひこひこと膜を震わせ、慌しく離れていく。


 晴彦は気球の幼生を見つけ「にまーっ」と笑いを浮かべた。しかし、ケストがタバサに注意したのを見ていたのか、まじまじと見つめるだけで、触ろうとはしなかった。


 緑色の霧を覗き込むと、いるいる! 大きいの、小さいの、様々な大きさの気球が、ふわふわと浮かんでいる。

 しかし、ほとんどは、タバサが乗り込んでいる気球ほどの大きさには成長していない。


 タバサは目を細くして、濃い霧を見通そうとした。


 なんだろう、遠くに微かに一列の光が見える。ゆっくりと右から左へ動いている。


「あれは何?」

 ケストは首を振った。

「判りません。雲の中に棲息している何かですが、わたくしたちも知らないことが【ロスト・ワールド】には多々あるのです」


 目を丸くするタバサに、ケストは笑いかけた。


「あれは、エニグマなのです。それで良いではないですか? わたくしたちは、そっとしておこうと決めています」

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