表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
輪廻転生
121/198

水母

「大丈夫。切れることは絶対にない」


 紐を弄っているタバサに、二郎は自信ありげに断言した。


 それでも恐る恐るタバサは乗り込んだが、二郎の言うとおり、切れる様子は微塵もなかった。ゲルダも同じ思いなのか、タバサと顔を合わせると、眉を上げ、肩を竦める。


 平気な顔をしているのは三兄弟で、玄之丞はポケットから葉巻を取り出し、悠然と口に咥えた。マッチを籠に擦りつけようとするのを、ケストは慌てて制止した。


「止めて下さい! 気球が嫌がりますので」

「へっ?」


 玄之丞はポカンとする。

 目を上げ、頭上の熱気球を見上げる。


「どういうことかな?」

「この気球は生き物です。わたくしたち、蝶人は気球の世話をすることが使命なのです」

「ほおおおっ!」


 感嘆の声を上げる。それでも葉巻を喫うことは諦めた。渋々、口の葉巻をポケットに戻す。


 気球部分の真下には、ぶよぶよとした質感の固まりが吊り下がっている。ケストは固まりに顔を近づけ、低く歌いかけた。


「フーン、ホーン、フーン……」


 と聞こえる歌声で、固まりはケストが歌い出すと、ぶるぶると震え出す。気球部分がゆっくりと膨張し、気がつくと高度が上がっていた。


 ケストは籠の中から外の様子を確かめる。

「この上の上空に、シャドウの本拠地に向かう風があります。そこまで上昇しましょう」

 ケストは言葉通り、気球を上昇させた。


「これが生き物……」


 タバサが気球を見上げ呟くと、玄之丞は肩を竦め、感想を述べる。

「なんだか、水母くらげのようであるな!」


 玄之丞の言葉にケストは大きく頷いた。


「そうです! 気球は【ロスト・ワールド】では、水母のような生き物なのです。【ロスト・ワールド】では例外的に弱々しい生き物で、わたくしたちが世話してやらないと、あっという間に絶滅してしまう危険があるのです」


 会話の間にも気球は着実に上昇を続け、ケストの言う気流に乗った。気流に乗っているため、タバサは風を感じなかった。

 但し、籠から下を見ると、移動している証拠に、ぐんぐん地上の景色が動いていく。


 動いていく。

 動いて……。


「おええええっ!」


 タバサは高所恐怖症だった事実を、すっかり忘れていた。

 二郎は黙って、タバサの背中を擦った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ