熱気球
「ねえ、あのケストって人、男なの? それとも、女?」
ケストが見えなくなると、タバサはかねての疑問を二郎にぶつけてみる。
二郎はゆっくりと首を振った。
「どちらでもない。ケストが〝ロスト〟する前、男だったか女だったか知らないが、蝶人になった時点で、そんな区別は消滅している。おそらく、ケスト自身も覚えていないんじゃないのかな」
「あの芋虫がケストだったなんて、信じられないわ!」
二郎は、にやっと笑った。
「まあな。【ロスト・ワールド】じゃ、〝ロスト〟したプレイヤーは、ここの生き物に狙われることがしょっちゅうだ。ここの総ての生き物たちは、我々、人間のプレイヤーを渇望していると言ってもいい」
タバサは首を傾げる。
「どうして?」
「ここだよ」と二郎は自分の額を指さした。
「おれたち人間のプレイヤーには、他の生き物にはない知性ってやつがある。憶えているだろう? 最初に出会った、馬と同化したプレイヤーを」
タバサは、こくん、と頷く。
「あのカウボーイなんざ、どう見ても知性的とは言い難い。それでも、ここの生き物にとっちゃ、神の如き知性の持ち主なんだ。多分、あいつは、二本足の馬たちのリーダーになるかもしれない」
ばさばさ……と羽音がして、ケストが戻ってくる。手に一本のロープを握っていた。ロープの先には、最初に見た熱気球が繋がっている。熱気球の籠は充分に大きく、六人が乗り込んでも余裕があった。気球部分と籠部分は一繋がりで、どこにも継ぎ目はない。材質は半透明の柔らかな素材で、触ってみると、妙につるりとしている。
吊るされている籠は、驚くほど細い紐が数本あるだけで、これで重みを支えることができるのだろうか、とタバサは怪しんだ。