蝶人
芋虫は岩山に近づくと速度を落とし、チューブが岩山に接した場所へ、もぞもぞと這って行く。ぐいっ、と頭を持ち上げ、前足を掛ける。
乗り込んでいた全員、芋虫から降りて見守った。
芋虫は、のそのそとした動きで、それでも着実に、岩山をじんわりと登って行く。
岩山を構成する真四角な岩は、あちこち外へ突き出し、登攀するには苦労しそうだが、芋虫はしっかりと多足の脚部を使って、ゆっくりと登る。
じっと見つめていると、ようやく満足した箇所を見つけたのか、芋虫は不意に動かなくなった。頭部を微妙に動かし、口から糸を吐き出して、岩の面に接着する。それから芋虫の巣篭もり行動が始まった。
タバサは岩山のあちこちに視線をさ迷わせた。
その気になって観察すると、岩山には無数の蛹が貼り付いている。
ばさばさばさ……と羽音がして、タバサは顔を向けた。
巨大な蝶の羽根が、視界に飛び込んできた。羽根を動かしているものを見て、タバサは思わず「えっ?」と声を上げる。
羽根の中心にいるのは、人間……のように見える。ほっそりとした手足、白蝋のような肌をして、血の気のまったくない顔色をしていたが、どう見ても人間だ。
髪の毛はプラチナ・シルバーの銀髪、瞳は薄いブルー。目尻は吊り上がり、唇には色が付いていない。
タバサは一瞬、裸なのかと思ったが、全身が肌と同じ色の、真っ白な生地のぴったりとした衣装を身に着けている。男とも、女ともつかない中性的な顔つきの人間は、二郎を見つめ、にっこりと笑い掛け、形のいい唇が開き、声を発した。声もまた、顔つき同様、男女の区別をつけることができないものだった。
「ようこそ、客家二郎。またいらしたのですね」