恐れ
ゲルダ少佐は目を丸くした。
「それでは、もし【蒸汽帝国】の軍隊があの〝門〟を通って、こちらへ侵攻したとしても……」
「馬鹿な!」
二郎は顔を顰めた。
「おれが散々、念を押しておいたはずだ! 絶対、王宮前に現れた〝門〟には近づくな、と! もし、あそこから【ロスト・ワールド】に乗り込んだら、総ての【蒸汽帝国】軍の武器兵器は、即座に何の役にも立たぬ、スクラップ同然になっている現実を悟るだけだ」
そこまで喋って、二郎の顔色が変わった。
ぐい、とゲルダに身を乗り出し、噛みつくように尋ねる。
「おい! まさか、【蒸汽帝国】のボンクラども、妙な考えを弄んでいる訳じゃあ、ないよな? じっとしておけ、とおれが諄いほど念押ししていたのを、忘れたとは言わせねえ!」
ゲルダは暗い目つきになった。
「それが……ターク首相はともかく、軍の一部には、あなたの忠告に従うことを潔しとしない人も……」
「けえーっ!」と、二郎は奇妙な叫び声を上げた。
「まったく、何を考えているんだ! もし、奴らが本気で〝門〟からこっちへ進攻しようと試みたら……」
ゲルダは心配そうな表情を浮かべる。
「どうなります?」
「総てご破算だ! おれが散々、苦労してお膳立てしたこと全部が、そっくり無駄になる! 【ロスト・ワールド】正常化はおろか、お前らのお大事のエミリー皇女の救出だって、永久に不可能になっちまう!」
ゲルダは真っ青になった。