原理
タバサは二郎に話し掛けた。
「ねえ、空路を行く、と言ってたけど、あれなの?」
「そうだ」と、二郎は頷いた。タバサの見ている風船を、二郎も見上げて説明を加える。
「ここは、熱気球の発着場なんだ。あれを使って、シャドウの本拠地へ向かう」
タバサは「ほっ」と安堵の溜息をついた。
良かった! また、虫の背中に乗り込まなくてはならないのかとビクビクしていた。
しかし、どうやってあそこまで登るつもりなのだろう? まあいい、二郎が総て知っているはずだ。
気になっているのは、ゲルダ少佐の態度である。プロペラ生物のゴタゴタが終わった後は、なぜか、むっつりと黙り込んでしまった。
ゲルダは膝を抱えた姿勢で視線を上げ、二郎を見つめた。
「二郎さん。質問があります」
「なんだ」と二郎は振り返る。
ゲルダは居住まいを正した。正座し、真っ直ぐ二郎を見つめ、質問する。
「どうしてわたしの銃が作動しなかったのか、知っているのですか?」
「ああ、そのこと」
二郎は薄っすらと笑いを浮かべる。ゲルダの頬が、二郎の笑いで紅潮したが、それでも黙って答を待ち構える。
「あれは【蒸汽帝国】から持ち込んだものだよな。それも、おれの見たところ、蒸汽軍制式の蒸汽銃だ。
【蒸汽帝国】のテクノロジーは蒸汽に依存している。とはいえ、普通の蒸気機関ではなく、【蒸汽帝国】独自の原理で動く。
ここは【ロスト・ワールド】だ。【蒸汽帝国】で有効な原理は、ここでは作動しない。だから、だよ」