不発
芋虫の背中に、ゲルダがすっくと立ち上がった。
両手で拳銃を構え、静かに接近するプロペラ生物を待ち構えている。ゲルダの指が銃爪を引いた。
かちゃり……。微かな金属音を立て、撃鉄が下りた。
それだけである。
タバサは「どかーん!」という拳銃の音を予想して、早々と耳を塞いでいたのだが、何も起きない。慌てたのはゲルダであった。
かちゃ! かちゃ! と、何度も銃爪を引くが、拳銃は何も反応無しだ。
「くそっ!」と小さく舌打ちをすると、今度は腰の軍刀をすらりと抜き放つ。拳銃は投げ棄てた。
一匹が、すぐそこまで近づいている。ゲルダは軍刀を素早く、下から上へ切り上げる。
ぎゃりんっ!
ゲルダの軍刀は虚しくプロペラ生物の身体を滑った。相当、硬い表皮をしている。それでも切り掛かった衝撃で、プロペラ生物のコースは逸れた。
二郎は素早く真葛三兄弟を振り返り、叫んだ。
「あんたらの出番だ!」
「ほいちっち!」
妙な掛け声を上げ、玄之丞が立ち上がる。腰に両手を掛け、胸を張った。
二郎がタバサに近づき、囁いた。
「耳はそのまま塞いでおけ!」
「え?」
「いいから、耳を塞ぐんだ!」
二郎はしっかりと両耳に指を突っ込む。訳が判らないなりに、タバサも真似する。
すうーっ、と玄之丞は大口を開け、息を吸い込む。
吸い込む。
まだ吸い込む。
まだまだ吸い込む。
どんどん玄之丞の胸は膨らんでいく。顔は赤らみ、眉間に深い皺が刻まれた。
知里夫、晴彦の二人も、しっかりと耳を塞いで、何かを待ち受けている。




