拳銃
タバサは「敵?」と、ぼんやりと呟く。タバサの呑気な反応に、二郎は苛々とした表情になる。
「そうだ。天敵だ! この芋虫のな!」
「襲ってくるんですか?」
素早く反応したのは、ゲルダだ。さすが軍人らしい。ゲルダは腰のホルスターから拳銃を抜いた。二郎は皮肉な目で、ゲルダの拳銃を見た。
「それで何するってんだ?」
心外な、という表情をゲルダは浮かべる。
「攻撃を受けるなら、こちらも反撃しなくては。当たり前のことでしょう?」
二郎はゲルダの拳銃をしげしげと見つめ、軽く首を振る。
「そいつは【蒸汽帝国】から持ち込んだものだな。ここで使えると思っているのか?」
ゲルダは驚きに、目を瞠る。
「なぜです? これは帝国軍の制式拳銃ですよ!」
ぷい、と二郎は、そっぽを向く。
「まあ、試してみな。どうなるか……」
明らかに小馬鹿にした、二郎の態度に、ゲルダは見る見る顔を真っ赤に染めた。
タバサはゲルダの拳銃を眺めた。拳銃というより、小型の大砲、といった形容が当たっている。銃口が喇叭状に開き、ずっしりと重そうである。ゲルダは軽々と扱っているが、タバサが持てば数秒と経たないうちに、腕が痺れ、持ち上げることすら困難だろう。
奇妙なのは、真葛三兄弟である。二郎が危険を予感して、緊張しているのに、三人は薄ぼんやりと空を眺めたり、知里夫は鼻毛を抜いたりしている。
まるで危険というものを、感じていないかのようだ。
見る間に空中を回転していたプロペラは、芋虫の進行方向に近づいた。
薄平たい、四本の羽根が旋回している。これが生物とは信じられない。
羽根の形は、根本が細く、先端が丸く広がった形をしていて、先端には目玉のような器官が付いている。もし目玉だとすると、ぐるぐる旋回していて、どうやって見ることができるのだろうか。
根本は口らしい。丸く開いた円形の穴の内側に、細かな突起が無数に生えている。歯である。
プロペラ生物は、ひゅんひゅんと風切り音を立てながら、見る見る接近してくる。




