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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
仮想現実の掟
111/198

拳銃

 タバサは「敵?」と、ぼんやりと呟く。タバサの呑気な反応に、二郎は苛々とした表情になる。


「そうだ。天敵だ! この芋虫のな!」


「襲ってくるんですか?」

 素早く反応したのは、ゲルダだ。さすが軍人らしい。ゲルダは腰のホルスターから拳銃を抜いた。二郎は皮肉な目で、ゲルダの拳銃を見た。


「それで何するってんだ?」


 心外な、という表情をゲルダは浮かべる。

「攻撃を受けるなら、こちらも反撃しなくては。当たり前のことでしょう?」


 二郎はゲルダの拳銃をしげしげと見つめ、軽く首を振る。


「そいつは【蒸汽帝国】から持ち込んだものだな。ここで使えると思っているのか?」

 ゲルダは驚きに、目を瞠る。

「なぜです? これは帝国軍の制式拳銃ですよ!」


 ぷい、と二郎は、そっぽを向く。


「まあ、試してみな。どうなるか……」


 明らかに小馬鹿にした、二郎の態度に、ゲルダは見る見る顔を真っ赤に染めた。


 タバサはゲルダの拳銃を眺めた。拳銃というより、小型の大砲、といった形容が当たっている。銃口が喇叭状に開き、ずっしりと重そうである。ゲルダは軽々と扱っているが、タバサが持てば数秒と経たないうちに、腕が痺れ、持ち上げることすら困難だろう。


 奇妙なのは、真葛三兄弟である。二郎が危険を予感して、緊張しているのに、三人は薄ぼんやりと空を眺めたり、知里夫は鼻毛を抜いたりしている。

 まるで危険というものを、感じていないかのようだ。


 見る間に空中を回転していたプロペラは、芋虫の進行方向に近づいた。


 薄平たい、四本の羽根が旋回している。これが生物とは信じられない。

 羽根の形は、根本が細く、先端が丸く広がった形をしていて、先端には目玉のような器官が付いている。もし目玉だとすると、ぐるぐる旋回していて、どうやって見ることができるのだろうか。

 根本は口らしい。丸く開いた円形の穴の内側に、細かな突起が無数に生えている。歯である。


 プロペラ生物は、ひゅんひゅんと風切り音を立てながら、見る見る接近してくる。

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