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接近
芋虫の背中に乗ったまま、旅は順調に進んでいる。
速度が上がると、芋虫の動きは滑らかになり、タバサはようやく落ち着いた気分で周囲の景色を見渡す余裕が出てきた。
地形は直線と、平面で構成され、曲線部分はほとんど見当たらない。透明なもの、あるいは白濁した結晶が、にょきにょきとあちこちから突き出している。
二郎の説明では、森にあたるらしい。山脈には奇妙な線刻模様が浮き出し、時折、青白い光が走る。
タバサは空を見上げ、首をかしげた。
太陽は見えない。ただ、真っ赤な血のような空が広がっているだけだ。それなのに光は感じる。どこに光源があるのだろう。
これも仮想現実の不思議の一つなのだろうか。
遠くの空にくるくると、十字型のプロペラのような物体が数個、浮かんでいる。
タバサは指さし、二郎に話し掛けた。
「ねえ、あれ。【ロスト・ワールド】の鳥なの?」
タバサの指さした方向を一目ちらっと見た瞬間、二郎の顔色が変わった。
「いかん! あれは敵だ!」