蝶
二郎は芋虫の頭辺りに陣取り、胡坐をかく。
真似をして、タバサたちも柔らかな背中に腰を落とした。
二郎は指を唇に押し当て、「ぴーっ!」と高々と鳴らした。
ぐっと芋虫は頭を挙げ、ぐねぐねと全身を蠕動させ、再び前進を再開した。
「こ……これ、何なの?」
「見ての通り、幼虫だ。チューブは、こいつの通り道になっていてね、滑りを良くするために粘液を放出させるが、粘液はチューブにとって栄養となる。つまり、共生関係だな」
芋虫の身体の動きで舌を噛みそうになったが、それでもタバサは、必死に質問する。
「それで、どこに向かっているの? さっきの指笛は何?」
「やーれ、やれ! また質問責めかよ……」
うんざりした表情になりながらも、それでも二郎は説明をする。
「なりはデカいが、要するに、こいつは幼虫だ。芋虫と聞いて、何を連想する?」
タバサはぶんぶんと激しく首を振った。芋虫なんか、考えたくもない。
「ほら、蝶だよ。こいつは、あの種の虫の幼虫なんだ。充分に身体が育つと、こいつはチューブを伝って、蛹になる場所を目指す。指笛は、こいつにとっては、生きるための信号だ。おれは何度か【ロスト・ワールド】に潜入して、こいつの利用方法を見出したんだ」
ゲルダは真剣な表情で割り込んだ。
「それで、シャドウの本拠地に、どれくらい近づくんです? 幼虫の巣篭もりをする場所が、シャドウの居城なのですか?」
「いや」と、二郎はゲルダの質問に短く首を振った。
「そう、真っ直ぐ行けるという訳にはいかないよ。しかし、かなり距離は稼げる。まあ、あとは空路を取ることになるけどね」
「空路……!」
と、全員が声を上げる。
いや、唯一人、晴彦だけは会話にまるで無関心で、ぼけっと呑気な表情で、周囲の景色に目をやっている。
これが鉄道なら、飛行機はなんだろう……。
タバサは一寸考え、二郎が蛹になって蝶になると説明したのを思い出した。
ということは……!
せめて、本当に蝶でありますように……!
タバサは、蛾が大嫌いなのだ。