落下
地面に残された全員は、驚きに顔を見合わせる。しばし、探るような視線が、お互いの顔を交叉する。
「では、わたしから」
ゲルダが意を決し、片足を上げてティンカーの上へ登る。上昇し、放物線の頂上に到達すると、見事なスワン・ダイブでくるりと回転し、チューブに乗り移る。
「ふむ。文明的とは言いかねるが、他に代替手段はなし、と……」
ぶつぶつ文句を言いながら、それでも玄之丞はゲルダに続き、飛び上がった。空中でばたばたと見っともなく手足を動かしたが、それでも無事、乗り移る。
「なるほど……面白れえ!」
にやにや笑いながら、知里夫も続く。
晴彦はまるで頓着することなく、躊躇いもなくティンカーの上へ飛び上がった。びょーん、と空中に飛び上がった晴彦は、コートからぱっと黒い雨傘を取り出し、空中で素早く開く。
なぜか、ふわふわとした動きで、チューブの上へと降り立った。邪気のない、天真爛漫な笑顔は、そのままである。
二郎が下を覗き込み、タバサに叫んだ。
「何している? 君の番だぞ!」
「う……」
どっと背中に汗が噴き出すのを感じる。タバサは拳をぎゅっと握りしめた。脚が震え、上を見上げるだけで、くらくらと眩暈がしてくる。
「だ……駄目! あたし、高いところ、弱いの……!」
二郎は顰め顔になった。
「高所恐怖症か! しかし、いつまでも愚図愚図していると、置いていってしまうぞ! それでもいいのか?」
「置いて行ってしまう」との言葉に、タバサは一大勇気を振り絞る。怖々と片足を上げ、発条の形に変形したティンカーの上へ立った。
ぎゅっと目を瞑り、覚悟を決める。
出し抜けに、ぎゅーん、とタバサの身体が持ち上がる。
「きゃあああああっ!」
声を限りに絶叫した。
目を開くと、自分の身体が空中に浮かんでいることを認める。足下にチューブが見え、表面に立った仲間が、ぽかんと口を開き、タバサを見上げていた。
すとん、とタバサの身体は落下し始める。
「厭──っ!」
どう見ても、タバサの落下地点はチューブから明後日の方向を向いている。このままでは、空中に放り出されてしまう!