乗物
いつまでも歩き続けることに、ほとほとタバサは、うんざりしていた。歩きながら、ぶちぶちと不平を漏らす。
「ねえ、いつになったら、シャドウのところへ行き着けるの? もう、歩き飽きたわ!」
玄之丞も、タバサに賛意を示す。
「ふむ。吾輩もタバサの意見には、全面的に賛成するな! なんだか、当てもなく歩いているようにも思える。二郎君、シャドウの本拠地は、それほど遠くにあるのかね?」
二郎は立ち止まった。
「我慢しろ。もうすぐ乗り物が見つかる」
二郎の言葉に玄之丞は目を引ん剥いた。
「乗り物だぁ? 【ロスト・ワールド】に、そんなご大層な代物があるのかね?」
二郎は玄之丞の質問には答えず、鋭い視線を辺りに配っている。
何か探しているのか。
二郎の瞳がきらりと煌いた。じわりと頬に笑みが浮かぶ。
「あった、あった! ここまで歩いてきた甲斐があったぜ!」
腕を挙げ、彼方に指を一本、真っ直ぐに伸ばした。全員、二郎の指差した方向に注目した。
二郎の指し示したのは、金属の丘に横たわる、一本のチューブのような物体だった。丘には結晶の森がごちゃごちゃと立ち並び、指摘されるまで、そんな物体があるとは、気付きもしなかった。
チューブは、地面からほっそりとした脚で支えられ、空中に高々とどこまでも伸びている。チューブはかなり太く、直径は三メートルはある。
「なに、あれ?」
「電車だよ。線路だ」
二郎の答えに、タバサは首を傾げる。
「からかっているの?」
「まさか! さあ、行くぞ!」
二郎はタバサの質問に全く取り合わず、とっとと歩いていく。無視され、タバサはちょっと「むっ!」となったが、それでも僅かな期待を胸に、従った。