説得
ガント元帥の目が細められた。
「シャドウと二郎が、示し合わせていたら、どうなんだ? 皇女の誘拐も、二郎が背後で糸を引いていたとしたら? 否定できまい」
タークは無言で唇を噛みしめた。
タークの反応に、ガント元帥は満足そうに頷く。
「どうだ? 時間は刻々と失われている。もちろん、皇女の残り時間だ。あと二日で、皇女は仮想現実から強制切断され〝ロスト〟が起きる! 判っているのかね?」
近々と顔を近づけた元帥の顔には、興奮のために血が昇った。
「今だ! 今こそ、我が帝国軍の全部隊を、あそこに見える〝門〟に突入させ、皇女を奪還する作戦を決行すべきだ! さあ、何を躊躇っている? そこの通話装置に向かって一言、命令すればいいのだ!」
さっと元帥は、執務室の通話装置を指さした。
「全軍、突入せよとな! この命令は、お主しか下せない! 皇女が大事なら、すぐ命令するんだ!」
タークは顔を背け、再び広場に視線を戻す。
「ゲルダ少佐が同行している。彼女の忠誠心は疑いのないものだ! もしものときは、ゲルダ少佐が……」
だん! と元帥は足踏みした。
「女ではないか! しかも、まんまとシャドウに皇女を目の前で引っ攫われて、おめおめと逃げ帰ってきおった!」
口調を和らげ、懇願するように話し掛けた。
「なあ、ターク。君とわしとの仲じゃないか? 【蒸汽帝国】創立のころから、わしらは肝胆相照らす友人として付き合ってきた。お互い、皇女を大切に思う気持ちは同じだ! その君が、なぜこうもグダグダとした態度でいるのか、わしには判らん!」
タークは、そっとポケットから二郎から渡されたディスクを取り出した。
ディスクの表面には不思議な煌めきが走り、ほんの少しの傾きで細かな紋様が浮き上がる。【パンドラ】修正プログラムの入ったディスクを弄び、タークは〝門〟を見つめる。
自信が激しくぐらつくのを感じ、タークは立ち尽くしていた。