元帥
海泡石のパイプを吸い付けたガント元帥は、煙草が切れていたことに気付き、顔を顰めた。
ポケットから新しい煙草を詰めなおし、再び火を点ける。
巨大な象のような体躯、つるりと禿げ上がった頭に、冷酷そうな灰色の瞳をした男で、歴戦の勇士を証明する数々の顕彰が胸に輝いている。
一服喫い、紫煙を口から漂わせ、苛々した口調でターク首相に向けて話し掛けた。
「ターク首相! いつまで我々は、こうして待ち続けなければならないのだ? 帝国軍は総て〝シティ〟に集結し、装備を点検し、機動部隊には燃料を注入して、待ち続けておる!」
〝王宮〟の執務室から広場を見下ろしたまま、タークは背中を向けたまま答えた。
「何を待っている、というのだ?」
ガント元帥は吠えた。
「突入命令をだ! 決まっておる!」
ばん、と音を立てデスクを叩く。拳が握りしめられ、白くなった。立ち上がり、タークの背後に近づき、唸り声を上げた。
タークの視線の先には【ロスト・ワールド】の〝門〟が不気味な姿を見せていた。〝門〟の周囲には、完全装備の帝国軍兵士が、手に手に武器を持ち、鋭い目付きで辺りに気を配っている。遠巻きに市民が取り巻き、不安そうな顔で〝門〟を見上げていた。
「まだ早い。客家二郎からの合図は受け取っていない」
「たかが電脳盗賊ではないか! あやつが何を企んでいるか、判ったものではない!」
くるり、とタークはガント元帥に向き直った。
「【ロスト・ワールド】の侵攻を、最初に警告したのは、客家二郎だぞ」