創造主
灰色の闇。妙な言い方だが、それしか表現の方法がない。
その空間には、ただ単調に、灰色の闇が広がっていた。黒とも、白とも言えず、かといって、単なるグレーとも言えない。色の諧調でどの辺りに位置するのかも、表現しようがない。
上も下もない空間に、一人の男が立っていた。
その男の肌は、塗りつぶしたような漆黒。艶のない、真っ黒な色合いは、いわゆる黒人とも違い、多分に人工的で、吸い込まれそうな漆黒であった。逆に、頭髪は雪のように真白い。
年齢は十代後半から三十代初めまで、どの年齢とも言えるだろう。漆黒の奇妙な肌色のせいで、年齢の見当がつきにくい。
男は大きく息を吸い込み、何か身内から高まって来るものを堪えているようであった。
さっと男の右手が高々と上げられた。男の唇が開き、声を発した。
「光あれ!」
その瞬間、べったりとした灰色の空間に、眩しい光が強烈に迸った。男は目映い光輝に怯むことなく、目を細めることもしなかった。高々と上げたままの右手を、さっと横に薙ぐ。
「大地!」
言葉が終わると、今まで何もなかった空間に広々とした大地が広がる。目の届く限り、平坦な地面を目にし、男の顔にようやく微笑が浮かんだ。男の両足は、大地にしっかりと支えられ、今や、上下の違いが顕わになった。
「空!」
青空が現れる。セルリアン・ブルーの真っ青な青空の中天に、太陽が燦々と暖かな光を投げかけている。
「雲!」
青空に忽ち、白い雲が浮かんだ。それを見上げ、男の顔にちょっと苦笑が浮かぶ。
「ちょっとばかり月並みな雲だな……。これは、急いで修正しないと……」
男の言葉どおり、青空に浮かぶ白い雲は、どこかの観光ポスターにありそうな、ぽっかりとした楕円形をしている。男の両手が複雑な舞を踊る。その手の動きに応じ、大地に緑が芽吹き、何もなかった地平線に山脈が浮かび上がる。森が、大河が出現し、風が吹き渡って、男の真っ白な頭髪を波打たせる。
男は一歩、足を踏み出した。途端にその表情が顰められる。ほんの軽く一歩を踏み出しただけなのに、男はぴょーんと十数メートルも空中に浮き上がったのである。
「重力修正! 軽すぎる!」
どうやら、物理的特性の設定の桁を、間違ってしまったようだ。男は左手の手の平を上にして、待ち受けた。すっと空中に白いボールが出現する。
男はボールを受け止めると、ひょいと空中に放る。ボールは当たり前の放物線を描き、落下し、地面でとんとんと何度か跳ねて、止まった。
それを見て、男は一人うんうんと頷く。満足すべき結果だったようだ。
「さてと……どう仕上げをするべきか?」