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畏れながら殿下、公主様は悪女ではありません。

作者: アーク
掲載日:2026/08/23

ここは、剣と魔法の世界。


私はWeb小説で良くある交通事故で落命した転生前は顔ナシモブ顔の女。


そして、どうやらこの世界は乙女ゲームを準拠とした世界でただの一般ピープルだった私は所謂正ヒロインに転生したらしい。


どんな乙女ゲームかは知らないが、12歳の魔力測定の儀式において負のエネルギーを浄化する事が出来る唯一無二の存在、聖女が私の役割。


平民の生まれだけれども、聖女だと言う事もありジングウ家と呼ばれる男爵家を後ろ盾に得て、15歳の時に本来貴族のみが通う学舎であると言う王立学園に入学する事となった。


乙女ゲームにありがちな、恐らく隠しキャラを含む攻略対象らしきイケメン達からチヤホヤされるのは、なんか、こう…


()()()()


王太子含め、全員が婚約者持ちであるにも関わらず、


「いや、それは婚約者にしろよ」


と言う話まで私に振ってくる。聖女の役目は土地に絡む負のエネルギーの浄化であって、お前らのメンタルケアなぞ知らん。


『美しい黒髪に、黒い瞳。正に、神話に語られる聖女の様だわ』


学園に入学したばかりの私に、平民出身である事を蔑む貴族の令息や令嬢が多いなか(※攻略対象らしき奴らはこれは止めたりしなかった、✕✕(ピーッ)が)、そう言って話し掛けてきてくれたのは王太子の婚約者であり、大陸の東にある異国の公主(ひめ)アイリーン(藍琳)様だった。


座学、魔法実践、土地の絡む負のエネルギーの浄化を聖女が行う仕組み等は藍琳様が教えてくれた。


王太子の婚約者である藍琳様が率先して私に関わり、


「聖女の心労は浄化の力の源である正のエネルギーの衰え。貴方がたは学園で何を学んでいるのですか?」


と根気強く説いてくれたお陰で、2年間の学園生活はとても楽しいものだった。


―――なのに。


「ジングウ男爵令嬢に対する度重なる嫌がらせ、果ては階段から突き飛ばしてその命を狙わんとするお前など、この国の未来の国母として相応しくない!


よって、私、レジナルド・ドハティー=マスグレーヴはアイリーンとの婚約を破棄する事を此処に宣言する!」


何言ってんだ、コイツ。


それが私の正直な感想である。


藍琳様は私に嫌がらせなんてしてないし、ましてや命を狙った事も無い。


「キミも、この世紀の悪女に何か言ってやると良い」


キラキラした顔でこっちを見るな。


王太子や、隠しキャラらしき人を含めた5人の攻略対象らしき奴らは()()()()()()()()()()()()()()()()を知らんから適当な罪をでっち上げで東の国に追い返したいだけなんだろう。


『異国の姫だか何かは知らないが、決して自ら歩く事はしない上に、婚約者のいる身で異性の従者に担いで貰っている』


と言うのが、コイツらの認識なのだから。


「―――畏れながら殿下、公主様は殿下の挙げた罪を犯す事は叶いません」


私の肩を抱き寄せて勝ち誇った顔をしている王太子の腕を払い除け、藍琳様の元に駆け寄った。


よくある犯罪めいた、と言うよりも、子供っぽい嫌がらせを藍琳様や他のライバルキャラだろうなと思う令嬢達が、聖女とはいえたかが男爵家の後ろ盾があるだけの平民相手にする必要はない。


特に、藍琳様はそんな事不可能だ。


「藍琳様の母国、大陸の東にある華國は皇族や高位貴族の女性は自力で歩けない程の小さな足が美しさの象徴なのです。そうですよね、灼曄(しゃくよう)様?」


藍琳様の従者であるガタイの好いゴリマッチョ系の灼曄様は大きく頷いた。


「3、4歳くらいの頃から親指以外のすべての指を内側に折り曲げる処置を行うのです。公主様は最も美しいとされる三寸金蓮の御足の持ち主です」


藍琳様は、「それでわたくしの潔白が証明出来るのであれば構いません」と沓を脱ぎ、足をキツく縛り上げている包帯を解いてみせた。


『ヒッ』


王族が在籍している卒業パーティーは、魔法の水晶でその様子が国全域に中継されている。


藍琳様の母国では「大足」と揶揄され婚姻も難しい、この国の一般的な令嬢達の御足よりも遥かに小さく小さく整形された御足が披露された。


「それで、なんですっけ?藍琳様が私を階段から突き飛ばして殺そうとした、と?」


この足で?と滲ませると彼等は口をもごもごとさせた。


他の奴らは兎も角、王太子は自分の婚約者の母国の文化くらい知っていて然るべきなんじゃないかなあ?


「これは一体、何の騒ぎか」


騒然とする卒業パーティーの会場に入って来たのは、王太子の母親、王妃陛下だった。


「聞き違いで無ければ、我が愚息が王命である婚約の破棄を宣言し、()()()()()たる聖女との婚約を宣言したかと思うのだが」


そう、この世界における聖女は日本神道における巫女に近い存在である。


この国の守護精霊である雷獣の花嫁が聖女。


乙女ゲームなら、ヒロインが攻略対象と恋愛関係になる事で守護精霊はふたりを祝福し、その大地は大きく発展した、的な流れになるのだろうけれど。


私が誰とも恋愛関係にならなかったのは、どうやらこの雷獣、かなり嫉妬深く粘着気質、所謂メンヘラヤンデレっぽいのだ。


この2年間で私に近付いて来た攻略対象らしき彼等が国や領地が発展するどころか、飢饉や疫病、地震や水害等に見舞われているのは私が彼等に一切興味が無いからだ。


今も私の頭の上でフワフワと浮いている、某国民的アニメに出て来るキャラクターに似た雷獣はバチバチと小さな雷を発生させている。


もふもふ大好き。


汚い花火は見たくないので一応止めておく。


この世界の元となったのであろう乙女ゲームの設定ではどんな方法でこのメンヘラヤンデレ雷獣を宥めて攻略対象と恋愛関係に発展したのかはちょっと気になる。


「聖女の意志を蔑ろにして、雷獣が繁栄を齎すと思うのか?」


王妃陛下の言葉に皆口を噤む。


私が、ほんの少しでも「嫌だ」と感じたら雷獣がハイテンションで破壊行動に勤しむのだから、それはそう。


「聖女よ、お前は愚息との婚姻を望むか?」


「いえ、全く」


転生前は若くして亡くなった気がするので、聖女としての役割をこなしながら天寿を全う出来れば、別に王侯貴族と恋愛関係になったりする必要はないかな、と思っている。


イケメンは鑑賞するだけで十分だし。


「卒業後は聖女として各地の負のエネルギーの浄化に時間を充てたいので、王族や貴族の妻に相応しい振る舞いをご教授願う時間など、露ほどもありませんから」


王妃陛下は満足そうに「そうか」と言うと、


「床に伏せっている我が夫、セルバンテス3世国王陛下の名代として、私が宣言しよう。


―――我が息子、レジナルド・ドハティー=マスグレーヴ王太子は此度の騒動の責任を取り、北部の魔獣暴走(スタンピード)の鎮圧にあたる。


レジナルドと共にこの茶番に興じたカーター公爵令息、モリス伯爵令息、トウェイン伯爵令息、ルミネ宮廷魔導師の4名もこの鎮圧に同行するものとする」


魔獣暴走(スタンピード)が収まらねば、聖女殿が土地の浄化に迎えぬ故な、と告げた王妃陛下に「考え直しを!」「ご慈悲を!」とか言ってる王太子達は廃嫡にならなかったり、幽閉にならなかっただけ有難いと思った方がいいんじゃないかな。


「祝いの席で、すまんな。―――近衛兵、今すぐにアレらを摘み出せ」


「はっ」


王太子達が近衛兵によってパーティー会場から連れ出されると、


「若者達の、新たな門出を祝って」


王妃陛下の合図に合わせて演奏が再開され、野次馬で騒動を様子見ていた同級生達は改めて卒業パーティーに戻っていった。


「ねえ、アカネ」


藍琳様が私の名前を呼んだ。


「此度の婚約は白紙に戻り、わたくしは華國に戻る事となるでしょう。だからわたくし、アカネを連れて國に戻りたいですわ」


「私、聖女だから。土地の浄化を求められたら傍にいられないよ?」


「ええ、それがアカネの役目ですもの。疲れて帰っていらした時に、温かい飲み物とお茶請けを用意して待つ事くらい出来ますわ」


藍琳様の傍にいるのは心地よいし、そんな生活もいいかもな、と私はふたつ返事で了承して、卒業パーティー後に後ろ盾であるジングウ男爵家に一報を入れてから藍琳様と華國に向かう事にした。


―――この時の私は、華國で藍琳様と灼曄様にズブズブドロドロに溺愛される事になるとは知る由もなく


―――またそれは、別の話である。

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