おまけ:リンとガイの「天球の灯(スフィア・ランタン)」講座
ちょっとだけ、小話。
ある昼下がり。
あの事件以来、クロヴィスは頻繁にアンティークショップ『星屑の天球儀』に足を運ぶようになった。
本人は「芸術の勉強のため」と装っているが、店の最奥へ迷わず進み、地下へ降りていく姿は完全に「建前」である。
彼はただ、リンとガイに会いに来ているのだ。
本人は嫌がるが、すっかり二人に懐いている彼は、ここに来るわずかな時間だけ年相応の顔を見せる。
「……なぁ。ここの人間は、お前たちのことを時々『双子座』と呼んでいるだろう。あれはどういうことだ?」
ガイお手製のクッキーを齧りながら、クロヴィスはふと疑問を口にした。
作業台の上で、新しい魔道数式を組んでいたリンが、視線を落としたままバッサリと答える。
「エレオノーラ様の趣味」
あまりにきっぱり告げられたので「そうか」と流しそうになるが、やはり意味が分からず、クロヴィスはリンをまじまじと見つめ返した。
「それじゃあ、分かんないよねぇ」
クッキーに合わせるお茶を淹れにいっていたガイが、ティーカップをのせたお盆を手に戻ってきた。
「他に言い様がねぇだろ」
リンが肩をすくめる横で、ガイがにこやかに補足する。
「ギルドって組織なんだから、コードネームがあった方が格好いいから……だってさ」
(なるほど。……補足を聞いても分からんな)
クロヴィスは内心で頭を抱えた。
「つまり、格好いいからついているだけで、深い意味はないのか?」
まさか、あのエレオノーラがそんな適当なことをするはずがないと、一応、念のため確認すると、リンとガイは揃って虚ろな目で頷いた。
「ちなみに、俺らが『双子座』で、他に『獅子座』『天秤座』『水瓶座』『蠍座』『乙女座』『牡羊座』『牡牛座』がいる。……これ、うちの組織の怖い順な」
リンの説明に、クロヴィスは戦慄しながら頷いた。
(まだ他に七人もいるのか……しかもこの二人より怖い奴らが……!)
「名前に理由なんかないよ。エレオノーラ様が、それぞれに『それっぽいな』と思った星座を割り振ってるだけだから」
最高峰のプロ集団だと認めているギルド内に、そんな「感覚的」なルールが存在するとは。
クロヴィスは、世界にはまだまだ自分の知らない神秘(と理不尽)が溢れているのだと、深く知見を深めるのだった。
ありがとうございました。「古代の心臓とシスコン」はこれで終わりです。
「『天球の灯』シリーズ」にしましたので、別のお話でもまたお会いできると嬉しいです。




