第九話 教え子の君へ
毎年四月に新入生を迎えて、三月に卒業生を送り出す。
教師をしていると、そのサイクルが続いていくものだ。
今まで何人の生徒を送り出しただろう。直接私が教えた生徒だけでも、かなりの人数だろう。
君は手のかからない、いい子だったね。
ときどきなぜか学年一位をとることがあったけれど、勉強は中の上だったし、風紀違反もほとんどしなかった。
たまに居眠りをしてしまうことがあったり、ノートの端っこに変な落書きをするくらいで、概ね真面目な生徒だった。
頼めば気軽に手伝ってくれるし、授業でわからなかったところを聞きに来る子だったから、先生たちの間でも、割と評判がよかったよ。
わからないことをわからないと理解するのは、いいことだ。それを昔のえらい人は、無知の知といったんだよ。
でも一つだけ、君に驚いたことがあった。
君、教室のストーブで餅を焼いて食べただろう。
いい匂いがすると言った私に、君は「お餅を焼きました」と悪びれることもなく答えた。
卒業式の前日だった。
なぜそんなことをしたのかと聞いたら、「隣の隣のクラスの人が、昼休みにストーブで焼き鳥を焼いていたから」と真顔で答えた。
思わず脱力してしまったよ。
聞けば君、お弁当にそうめんを持ってきたこともあったらしいね。
無知の知は、私にも言えることだ。君のことを知ったつもりになっていた。
自分が受け持っていた生徒に、こんな一面もあったのだなと知ることができた。
でも、君の食べ物に関する謎の行動力には、少し驚かされたな。
まさか君がそんなことをするとはね。
今も元気にしているだろうか。
多分君のことだから、つつがなく日々を過ごしているのだろうけれど。
そういえば、君の彼氏……二宮も元気だろうか。
いや、さすがにもう別れているか。
教室の窓の外では、梅のつぼみがふくらみはじめたよ。
じきに梅が咲いて、ストーブをしまう季節がやってきて、次には桜が咲く。あっという間に三月がやってくる。
私は君たちのように、また生徒を送り出す。
気が向いたら、学校にも顔を出すといい。
卒業しても、私にとって君たちは生徒なのだから。




