第八話 うちのお店によく来てたあの子へ
うちのブティックに来てくれてたあの子、元気かしら。
お洋服のたくさん並んだ棚の前でうんうんうなってたから、声をかけたのよね。
何かお困りですか? って。
そしたらあの子、この服がかわいくて買いに来たんだけど、下に何を合わせたらいいのかわからないって言うの。
あらやだ、かわいい!
アタシはかわいくなろうとする女の子の味方よ。
まずはオーソドックスな接客で様子を見て、どんなお洋服でも合いますよって答えたけれど、あの子は色々と悩んでたから、アドバイスしたわ。
この服は、ボトムスが短い方がかわいいですよって。
どういうときに着る予定ですか? って聞いたら、デートだって言うの。
デート! いいわね! アタシの腕も鳴るってもんだわ。
彼氏さんはどんなファッションがお好きなんですか? って聞いたら、ちょっと驚いてたわ。
でもね、おデートで一緒に歩くんなら、彼氏さんのファッションとも、ある程度合わせるのはありよ。技あり。
自分が最高にかわいいと思う格好をするのが一番いいけど、ファッションって好みもあるじゃない?
だから彼氏さんのファッションと似た系統にそろえておくと、好みからあまり外れないのよね。
そうしたらあの子、よくわからないから今度連れてきますって言うの。
やだー! 初々しいー!
アタシ、うれしくなっちゃって、楽しみにしてますね! って返事しちゃった。
そんなふうに言って、結局来ないお客様もいるんだけれど、あの子は来た。
本当に彼氏を連れてきたのよね。
「にゃーちゃんがお世話になってます。二宮です」
小さく頭を下げた二宮くんに、笑っちゃったわ。
だって、たった一言なのに、ツッコミどころがてんこ盛りじゃない?
まず、お客さんに自己紹介されるとは思わなかったわ。
それで、にゃーちゃんっていう呼び方をそのまま挨拶に使うの、意味わかんないわよね。
この子たち、ズレてる!
そんなところが一層かわいく見えて、色々相談に乗っちゃった。
でも二宮くんたら、反応が薄いのよね。
「かわいい?」
「かわいい」
「こっちは?」
「かわいい」
こんな様子じゃ、あの子が何を着てもかわいいって言うわね。
ほっこりしながらそんなことを考えてたら、とんでもないものを見ちゃったわ。
「どっちがいい?」
「どっちもかわいいけど、にゃーちゃんは多分こっちが好きでしょ」
にゃーちゃんはこっちが好き!?
きゃー! 何それ!
にゃーちゃんの好みは把握してますってことー!?
しかもあの子、「うん」って言うの!
当たってたのねー!?
聞いてるアタシの方が照れちゃったわよ。
そんな感じで、たまにうちのお店に二人で来てくれてたのよね。
でも最近は見かけなくて、元気にしてるかなって、たまに思い出すわ。
最後に会ったとき、同棲するって言ってたから、きっと引っ越したんでしょう。
生活環境が変わっちゃって、来なくなっちゃうお客さんはいるわ。
とっても残念だけど、それは仕方のないことなのよね。
たまには顔を見せに来てくれたら、アタシはうれしいわ。
……二宮くんがあの子のお洋服を選ぶようなことも、あるのかしら。
そんなことを想像して、一人でレジ前でニコニコしてる。
アタシはかわいくなろうとする女の子の味方よ。いつでもね。




