第六話 たまに喫茶店に来るあの子へ
あの子は、たまにやってくるお客さんだった。
常連というわけではないけれど、僕の勤める喫茶店にやってきて「おいしい!」とうれしそうにしているから印象的だった。
隣にはいつも男の人──入店待ちの紙に書かれた名前によると、二宮さんというらしい……がいて、よく二人で食事やデザートを楽しんでいた。
一度だけ、あの子が一人で来たことがあった。どうやら会社帰りらしかった。
ぐったりしながらハニートーストを頼んで、一口食べて、鼻をすすった。
泣いてるのかな、と思ったから、おまけのクッキーを持って行った。
あの子は少し驚いたように目を丸くして、照れくさそうにえへへと笑った。
喫茶店って、そんなふうに人の気持ちを支える部分があるんじゃないかな。
だから仕事の休憩でやってくるお客さんもいるし、商談の場に使ったり、仕事場みたいに使ったりする人もいる。
喫茶店って、いいところでしょう。
僕があの子におまけのクッキーを持って行ったのは、そんなふうにお客さんにも思ってもらいたかったからだ。
彼女はテーブルの上にある紙ナプキンを一枚取って、ずびーと鼻をかんだ。
結構大きな音がしたけれど、遅い時間だから、他のお客さんもいない。
「美味しいです。ありがとう」
噛みしめるようにつぶやくあの子に、僕は満足した。
僕ら店員はお客さんを迎え入れる側だから、お客さんが話したくないことには、首を突っ込まない。ほんの少しの支えなんだ。
あの子がハニートーストを食べ終わる頃、ドアにつけたベルが小さく鳴った。
「にゃーちゃん、ごめん。迎えに来るの、遅くなった」
二宮さんとケンカでもしたのかなと思っていたけれど、そうじゃなかったらしい。
「すんません。お店に来たのに、何も頼まなくて」
「いえ。お迎えですよね」
「……そっすね」
二宮さんは照れたらしく、視線をふいと外した。
ドアのベルが再び鳴る。
二人で帰っていく後ろ姿を眺めながら、僕はハニートーストの乗っていた皿を食洗機に入れた。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」




