第五話 ライバルの恋人である彼女へ
「二宮くんじゃなくて、ボクのところに来ない?」
あのときなんであんなことを言ったのかと、後悔している。
特に彼女に興味があったわけじゃない。
ボクは二宮くんに勝ってみたかった。しれっとして、感情の起伏があまりなくて、穏やか。
口数はそんなに多くはないのに、たまに口を開くと「にゃーちゃん」と彼女の話をして、たまにボソッと毒を吐く。
そんな二宮くんが悔しがるところを見てみたかったのかもしれない。
彼女はいろいろなものに興味を持って飛び回るけれど、その興味がボクに向くことはなかった。
なんでだよ。そんなに変わんないだろ。
そんなふうに思うけれど、彼女にとっては明確に違うらしかった。
手伝えば彼女は「ありがとう」と言う。褒めれば、ちょっと困ったようにはにかむ。
けれども、二宮くんの前で見せるときのような表情を、ボクが引き出すことはできなかった。
合わせようとした。彼女の好み、ペース……そういうものを観察して、甘い言葉をかけて、ボクのところに来るのを待った。
でも彼女は、二宮くんに向けるほどには、他の人間に興味を持たないらしかった。
ボクなりに、結構努力したつもりだったんだけどな。
コンクリートの防波堤はちょっと冷たい。潮の香りと波の音がして、心地よい。
彼女が全然振り向いてくれないから、いつしか、努力したという自負は、彼女へのいらだちになってしまった。
多分それは彼女への態度にも出ていただろう。
そんなボクのところに来るはずもない。
なにより、ボクは彼女に興味がなかった。これから先も、興味を持つことはないのだろう。
二宮くんならともかく、彼女にまで見透かされていたようで、薄ら寒い。
それもこれも、二宮くんが強すぎるのが悪い。
いつも彼女の隣にいて、いるのが当たり前のように馴染んでいる。
二宮くんと彼女は、幼馴染だと聞いた。過ごした時間の長さで、二宮くんに敵うわけがない。
海風がふっと頬をなでていく。
彼女には、悪いことをした。
「ごめんね」
ぽつりと漏れたボクの声に応えるものはなく、海風が空を切る音だけがした。




