表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第一節 『災厄の客星』

方舟シリーズ4作目です。よろしくお願いいたします。




 新月の夜、長河口(チャンフーコウ)の山々の合間を一条の流星が駆けた。

 針の(むしろ)のように天高く(そび)える岩壁(がんぺき)山嶺(さんれい)は、赫藤(あかふじ)耀光(ようこう)を浴びて夜空にその威容を(のこ)す。


 それは、わらわのいる場所からも観えた。

 ここは封印禁地(フォンイン ジンディ)──龍族の支配域、九龍(ジゥロン)帝国の最果て。別名、救済の消えた地(アンティメシア)

 二千年前、龍族と天使と悪魔が相対した決戦場である。


 その地に、わらわは住んでいる。

 いや、幽閉──俗世から隔離されていた。


星堕(シンドゥオ)か」


 やがて遠方の空が紅蓮に煌めき、稲光(いなびかり)の如く空が一瞬だけ昼空(ひるぞら)になった。


 人の目にはただの閃光に過ぎぬだろう。

 だが、龍族であるわらわの()には、その一部始終が明瞭に映っていた。


「不吉な予兆だ」


 天に浮かぶ星々が堕ちる時、それは災厄の前触れだと九龍(ジゥロン)では信じられている。


 星詠みの龍、“星海龍”(ツァイ)星蘭(シンラン)

 今は亡き母上が教えてくれた数少ない教えのひとつだった。


「何も起こらねば良いのだがな……」


 わらわは母上を想うたび、途轍(とてつ)もない罪悪感に襲われる。


 母上はわらわを産んだ時に重病を(わずら)った。

 病名は高濃度放射線被曝(ひばく)。先天的にわらわの全身から(あふ)れ出る高濃度の放射能によって、母上の身体は静かに(むしば)まれていたのだ。


 国の者たちが無事だったのも、きっと母上が全てを請け負ったからなのだろう。


 それゆえ、生まれてすぐにわらわは棄てられた。

 国を守るため、民を守るためには、それは正しい決断だったと思う。


 だけど、母上だけはわらわを最期まで見捨てなかった。

 周囲の反対を押し切って、わらわのいる封印禁地(フォンイン ジンディ)に足を踏み入れたのだ。


 母上は亡くなるまでの間、わらわに生きる術を教えてくれた。


 そのおかげで、今もわらわはこの地で生きていられる。

 母上の愛がとても眩しくて、そして温かかった。


 それでもやはり罪悪感は拭えない。

 この呪われた体質に生まれてしまったがゆえに、父上は愛する母上を失ってしまった。きっとわらわの事を心底恨んでいるのだろう。


「母上……」


 封印禁地(フォンイン ジンディ)に建てられた宮殿──“星禁城(シンジンチェン)”。

 母上とわらわの龍名を冠する、唯一無二の城にして、わらわの社。


 その中庭(なかにわ)に佇む黒曜石の墓標に、わらわはそっと縋るように語りかけた。


 返事など、聞こえるはずもないのに……。

 愚かなことだと、理解しているのに……。


 それでも、わらわは言葉を紡いでしまう。


「わらわはどうすべきだろうか……」


 この時のわらわは、知る由もなかった。

 まさかこの出来事が、国家を揺るがす大事件に発展するなんて──。



面白いと思っていただけたら、ブックマークと評価していただけると幸いです。

感想もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ