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空の騎士と絶望の期末試験

月曜日、ドアを開け教室に入った僕を、数人のクラスメイトが出迎えた。


「お、勇者来たぞ勇者」

「勇者じゃなくて騎士だよ、空の騎士!」

「転生してチート能力もらうやつじゃないの?」

「あー、もうお前らわかってねえな『空の王国と蒼穹の乙女』ちゃんと読んどけよ」


「土曜日、かっこよかったよ神山君!」

「『俺の女に手を出すな!』だっけ?あれってどういう事?村上さんとどういう関係!?」


名前と顔ぐらいはわかるが、今まで殆ど話したことの無いクラスメイト達だ。男子もいれば女子もいる。

クラスメイト達の言葉には多少の揶揄するようなニュアンスが含まれてはいたが、悪意ではなく好奇心や善意から発せられる物である事は理解出来た。


「い、いや、あれはあのキャラのセリフで……」


「えー、そうなの?キャラなりきりって事?」

「まあ、そんな感じ、かな?」


「でも、ほんとあの3年の先輩、タチ悪いよね。村上さんに振られたからって」

一人の女子がそう言った。どうやら、あの先輩が紗良に振られたのは周知の事実のようだった。


「はは、ああ、そうだったんだ」

愛想笑いを振り撒きながら、取り囲むクラスメイト達をかき分け、なんとか自分の席に辿り着き鞄を置く。


左斜め前の紗良の席を見るが、席の主はまだ登校していないようだった。あかりが紗良を更衣室に連れて行った後、僕が男子更衣室で着替えを済ませて戻った時には紗良の姿は既に無かった。あかりが言うには着替えを済ませてすぐ帰ってしまったらしい。


それ以来、紗良とはまだ会っていないのだった。


「いやー、シンイチ君ほんまかっこよかったわー」


耳元で突然声がした。遥がいつものように気配なく僕の後ろに立っている。

振り向くと、目の前に遥の横顔が飛び込んできた。

まじまじと遥の横顔を眺める。制服を着ている遥の姿と、ゴスロリ服を着た遥の姿。どちらも遥だと頭では理解しているが、今だに僕の頭の中でその2つの姿は一致しなかった。

唯一、長いまつ毛と大きな目はどちらの姿でも違和感は無いな、と僕は思った。


遥がこちらを向き、間近で正面から僕をまっすぐ、じっと見つめた。

僕は視線を逸らすことが出来ず、遥の視線を正面から受け止めてしまった。


「おはよう……相変わらず気配が無いね、遥」

僕は、椅子に座り直し、なんとか遥から顔を引き離す。


「土曜日はありがとう、改めてお礼したくて」

遥にしては珍しく、殊勝な態度だった。


「いや、僕は別になんも……」


「《《あの時言ったこと》》、冗談ちゃうからな」

遥はいつものように、少し、ふざけたようにそう言った。


「あ、遥ちゃんおはよ〜あの衣装凄かったね〜あれ、遥ちゃんが作ったんでしょ?」

クラスメイト達も遥に気づき、僕の周りにいた数人がわっと遥かを取り囲んだ。


「やろ?あれ自信作やねん」


「遥ちゃんの着てた服も可愛かった!」


「あれはウチの私服や。可愛いやろ?」


「うん!もしかしてあれも遥ちゃんが作ったの?」


「せやで」


「えー、そうなんだ〜すごーい」


クラスメイトの輪の中心が遥かに移り、僕は解放された。

やれやれ、と安堵し、自席で授業の準備をする。遥を取り囲むクラスメイト達の輪はとても盛り上がっているようだった。笑い声や歓声が聞こえてくる。


「あ、師匠〜遥ちゃん、おっはよ〜」

教室のドアを開けてあかりが入ってきた。


「あ、あかりちゃんもこっち来て!」

クラスメイトの女子に招かれ、あかりも遥を取り囲む輪に加わった。


「あかりちゃんの衣装も可愛かったけど、あれ何のキャラなの?」


「お前、知らないの?主人公の幼馴染で一緒に旅立つ見習い魔法使いのルビーだよ」

どうやら一人、隠れオタクが潜んでいたらしい。


「なんか、あんた随分詳しいわね」

クラスメイトの女子の的確なツッコミが入る。


「いや、日曜朝とかにアニメもやってたし結構人気だったろ?俺も結構見てたし」


「あー、なんかやってたかも?」


いつの間にか、あかりと遥かの周りでは『空の王国と蒼穹の乙女』についての話題で持ちきりだった。意外と?認知度が高そうで、やれあのキャラが好きだった、あのシーンが良かったなどの会話が繰り広げられていた。


ガラリ、と教室のドアが開いた。僕がドアの方を見ると、そこには紗良の姿があった。一見するといつも通りの落ち着いた様子に見える。クラスメイト達も紗良に気がついたようで、何人かの女子が紗良に声をかけた。


「紗良ちゃん、大丈夫だった?」

「あの先輩、タチ悪いので有名だからね〜」


「うん、大丈夫、みんなが助けてくれたから」


そう言いながら紗良は僕の方をちらっと見た。一瞬、僕と目があったが紗良はすぐに視線を逸らしてしまった。


(……微妙に気まずい)


『《《俺の女》》に手を出すな』

これが「アラン」のセリフだという事は紗良にはわかっている筈だ。が否が応でも意識してしまう。


僕の席を中心に、あかり、紗良、遥、そしてそれを取り囲むクラスメイトの人だかりが出来ている。ちょっと前まで、僕の席の周りはとても静かだった。それが今ではどうだろうか。


チャイムが鳴り、先生が入ってくる。

「起立、礼、着席〜」


「おはようございます。えー、来週から期末テストなのでみなさん準備を怠らないように」


その言葉に、僕は忘れかけていた現実に引き戻された。


(う、そういえば期末テストの時期か……)



その日の放課後、あかりと遥が紗良の席を訪れていた。


「……紗良ちゃん、お願いが」

「……ウチも」


あかりも遥も、この世の終わりかのような表情をしている。


「ど、どうしたの?二人ともそんな深刻な顔して……」

その二人の表情に、紗良も困惑しているようだった。


「ここんとここないだの衣装ずっと作ってたやろ?で、期末試験の勉強全然してないねん……」

「私も、画塾の方が忙しくて学校の勉強が……」


どうやら二人は、紗良に期末試験の勉強を教えてもらいたいようだった。

確かに、常に学年トップクラスの紗良であれば適任だろう。


「じゃあ、みんなで勉強しよっか?」


「えー、ほんとー、ありがとー」

「恩にきるわー」


あかりと遥は紗良を神様かのように拝んでいる。その大げさな態度に紗良は苦笑しながらも、どことなく楽しそうだった。


「あ、シンイチ君も一緒に、どう?」

紗良から突然声をかけられて、僕は少し驚いてしまった。


「い、いや、三人も面倒見るとなると紗良も大変じゃない?」

部活もやっていなければ、他に何かやる事があるわけでも無いので、常に勉強はそこそこやっているのだった。


「確か、シンイチ君って国語とか社会とか得意じゃなかったっけ?」


「ま、まあ数学とかよりは……」

理系の科目は平均点ぐらいだが、国語と社会は確かに結構上の方ではある。ただ、紗良がそんな事まで知っている事に僕は驚いていた。


「じゃあ、英語と数学と理科は私、他の科目はシンイチ君って役割分担って事で……どう?」


「おおー、それは強力そうなラインナップだねー」

紗良の提案にあかりが目を輝かせた。


「シンイチ君も協力してくれるなら百人力やー」

遥は大げさに僕と紗良を拝み倒している。


「まあ、そういう事なら……」


断り切れるような雰囲気でも無かったし、何より紗良と一緒に勉強出来るのは僕にとって、とても魅力的でもあった。


「早速、今日からしようか?」


紗良の提案にあかりと遥が頷いた。僕も特に予定は無いので同意する。


「お腹すいたし、マックでも行かない?」


あかりのその言葉で、今日の勉強会はマックで開催される事となった。

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