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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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前夜録④

第87話 前夜録④


 津宮が眠っているのを確認して、医務室の窓から外へ出る。医務室の真下の部屋は駒場と津山の作業場。忙しい駒場はそこで眠っていて、どういうわけか医務室からの脱走者に気付く。さすがに俺の真横のこの窓から出ればバレないだろうが。




「お医者様の言うことは?」




「絶対、なんて思うわけねぇだろ」




それもそうか、と笑うルアは早起きで、上ってくる朝日を見ていた。空中から降りて、俺の目の前に立つと穏やかな笑みを浮かべる。




「調子は?」




「ばっちりだぜ」




「俺は残らないといけないからな。レイのことは頼むぞ」




「わかってるって。いつもと変わらないだろ?」




 いつもと変わらないルアの心配性は俺には慣れきって大した効果がないけど、本来のルアの心配は危険を察知している。なんなら何かがあるという予言と言っても過言ではない。賢神と称えられるほど、策略に長けるルアだからこそ、「心配」「不安」というのはイレギュラーの予兆らしく、レイや俺に心配症の言葉が向けられたらそれは……




「最終決戦みたいなものだろ。そう甘く見るなよ」




「油断はしない。お前もこっちで気ぃ抜くなよ」




「わかってる」




 俺達にこれ以上言葉がいるだろうか。お互いのことはもうよく知ってる。一緒に育って、喧嘩して、一度は離れても、俺達は一緒にいれる。役目も、夢も知っている。




俺はお前なら大丈夫だと思ってる。でも、お前が捨てられないでいる罪悪感だけがずっと引っかかるんだ。もしもの時、それを見てしまった時、ルアは止まらないでいられるのかって。




「もうそろそろレイが起きるぞ。参謀殿は会議の準備か?」




「そっちは駒場の説教だろ?」




 何を言ってるんだと笑ってやったが、俺の肩にポンっと手が置かれた。わかる。わかるぞ、この手の人物が。




「おーきーつーぎーさん」




「お、おはようございます、ドクター……」




「あらあらわかってんじゃないの。さっさと戻るわよ。確認検査するんだから」




 肩を掴まれたまま駒場に連行された始めた俺はルアにぐっと拳を差し出す。ルアはすぐにわかってくれたようで、微笑を浮かべながら拳を出してくれた。




俺達ならできる。




************




 俺達ならできる。




 ズルズル引きずられていくソウは、これから作戦会議開始の時間まで駒場によるお説教をみっちり受けるだろう。まったく……前もそんなことをしたというのに、医務室の脱走に抵抗がない……





 俺の役目。全体のサポートと繋ぎ。武力をぶつけることじゃない。レイやソウとは別のところで戦うのだ。あの二人を信じてないわけじゃないが、心配は心配。二人が大事だから。一人は、気が付いた時から側にいた家族のような、己の半身のような存在。もう一人もずっと一緒に生きてきたような、なんでもわかる相棒。どちらも失いたくない。


 本当は俺も、あの二人と戦いたい。同時に、レイに求められてる自分の役割が、自分に最も適していることも理解している。今レイのために何かできるだけ、俺は感謝するべきだろう。あの日、選んだ過ちをレイは許してくれた。殺したいほど恨んでいただろう。裏切りの痛みは計り知れない。あの選択は真壁を友達にしたことよりも間違った選択だった。


 後悔したところで戻れはしないが。


 せめて、許された今を二度と間違えないよう進んでいくしかない。この戦争が終わっても、俺はレイのために選択し続けようと決めている。どのみち他にやりたいことなんてない。レイやソウ、悟と平和に暮らせればそれでいい。


 それだけの願いもこの島では贅沢だが、きっと外は叶えられることだろう。


 俺は、そんな未来のためにここに立つんだ。


***********


 まるであの日みたいだ。盧寿が勝手に出て行って、全部変えて終わらせた日、そんな日の前夜。各々が自由に過ごして、話して、何かを語る夜。


「レイから離れるとは珍しいな、真」


 一人に浸っていたというのに、邪魔が入る。たしか、昔もそうだったが……邪魔の主は覚えていないだろう。


「樹こそ、なんでこんなとこに?」


「少し昔話がしたくなってな。手頃な奴を探していたところだ」


「あいつらだっていいだろ」


「ロミと花沢は仲良くどこかへ散歩に。ルカはまだ寝てる」


「俺達年取ったな。体が早く起きるわけだ」


 樹は俺の隣に座って俺の見ていた川に炎を這わせた。炎の形は鳥や熊とかの動物の姿をとりながらゆっくり変わっていく。


「昔のことでずっと貴殿に聞きたいことがあった」


「昔も何度も言ったが、俺は盧寿のこと好いてないからな」


「それはもうわかってる」


「じゃあなんだ」


 まさかな。こいつも全員、俺以外あの日のことを詳しく覚えてないはずだ。なのに、なんでそんな顔をしている?


 なんで俺を睨むような――


「真、貴殿はあの日の真相を知ってるな?」


 一番、誰よりも、樹にだけはこのナイフを突きつけられたくなかった。俺だけでこれは終わらせるべき記憶だ。なのに、こいつはやっぱり疑ってた。


「隠したがっていたなら悪いことをした。だが、小生もロミも花沢もそれぞれ気づいてるぞ。小生たちは集まってしまった。そのせいか、昔話をよくしただろう」


 たしかにしていた。懐かしんでいただけだが、昔話をたくさんしてきた。けどあの話には何もおかしなところはなかった。


「俺も懐かしい話たくさんできてよかったと思うけど、それがどうかした?」


 まだこいつは真相を知ったわけじゃない。不思議そうな顔をして、何もないように普通に振る舞えばいい。まだ大丈夫。そうだろ。そうであってくれ…!


「どうもこうもおかしいと思わないか?小生たちには共通の記憶がありすぎる」


「共通の記憶くらいあるもんじゃないのか?」


「貴殿と小生だけならわからんでもない。小生らはよく一緒にいたからな」


 ここでやっと俺はあの日の重大なミスを悟った。必死だったからそんなことまで思い至らなかった。いや、思い至ったとして何かできただろうか。


「普段一緒じゃなかった花沢まで思い出がなければ完璧なただの思い出だった。なぜ花沢まで小生と同じ記憶を持ってる?」


 ダメだ。知られちゃいけない。そうだ、約束したんだ。


「なぁ樹、まだ起きるには早いんじゃないか?」


「おい、話を逸らす――」


『真世界』


「…………まだもう少しだけ知らないでいてくれ」


 もしかしたら全部うまくいって闇に葬れるかもしれない。だが最悪の時は……大丈夫。俺が全部背負ってお前は英雄のまま終わらせてやるから。

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