前夜録③
私が戦場に立つこと、それはずっと嫌だった。でも駒場亜海という人間に、あの男の娘に生まれた時点でまともな結末はなかったのよ。だって駒場亜海には他にない再生の力がある。なんで私だけなのかと何回も何百回も思って生きてきた。戦えもしないこの力でこんな島生き抜けるはずないじゃない。ここは地獄。命なんてその辺の石と同じ。なんなら玩具よ。上に立つような人間は大抵、人を壊れても替えが効くものだと思ってる。誰もまともに命を見てない。
どうして簡単に捨てられて奪えるのか理解できなかった。私にだって治せないものがある。万能の力じゃない。それでも不死身の兵を作れてしまう。私は、替えの利かないあいつの玩具だったけれど、死にかけてる人を、たとえ地獄に引き戻す行為だったとしても放置できなかった。
レイのために力を使うことは後悔してない。いつか終わらせてくれる。そう信じているから。でも、レイが仲間の命と見えてる命を大事にしている一方で、有害な命に大層冷徹なことを私は知ってる。あの途方もない人体への理解。あれは本物を何回も見ているのだと思う。何回も何回も見て、何回も何回もバラしている。死体にも見慣れすぎていた。
別にいい。そんなレイでも命を大事にしてることは知ってる。ただレイにとっての優先順位があるだけ。そう、言ってしまえばましに聞こえるけど、本当は命の扱い方を知っておくことが上に必要なことなのだと、レイがしていることは私が嫌った命を捨てる行為と等しい。
こんな世界じゃ博愛主義は通らない。だからせめて私はましな方を選んで地獄に立ってる。大丈夫――――言い訳しても無駄ね。私ももう知ってる。知らない命まで助けられない。助ける気もない。この地獄は思いやりを損なわせていく。
私にも命の優先順位がある。レイに託された仲間の命を全力で救う。けれど、死にかけた敵兵をあっさり見棄てた私はもう、近藤を睨めない。全部終わったら私も償わなければいけない。見棄て、殺した命に。
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寝る前に最終調整をと思って作業場に来てみれば、そこには矢辺さんがいた。あの人も何か作業をしているならと思って部屋の中に入ろうとしたけど、何かおかしいと思って自然と足が止まった。
機械の外側のパネルを開けて、矢辺さんはただ見つめている。確かあれは、仮拠点へ荷物とかを転送させるために作った転送機。ルアがいるのにとも思ったけど、矢辺さんは必要だからと一人で作り上げていた。
でもおかしい。あれは中でパネルを操作するところがあった気がする……
設計図を思い出す。あの時は忙しくてよく見れなかったけど、頭の中には何がどうなっているかの図面をきちんと入れてある。
あれ、転送機じゃな――
ガチャ
「津山か。どうした」
平然と扉から顔をのぞかせた矢辺さんに自分は今どんな顔をしているだろう。わからないけど、何か言わなきゃ。何も見てないってことにして離れなきゃ。
「見たのか?」
「み、見てない、です」
「…………お前はやっぱり賢いな。その図のことは忘れろ。お前たちには手を出さない」
閉ざされた扉に入る勇気はなくて、朝一であとは作業しようと部屋に引き返した。あの人は人を殺すつもりだ。本当はずっと気づいていたんだ、あれがただの転送機じゃないって。理論上、転送機にはなるものの、矢辺さんが夜な夜な作業していた設計図を見れば、あれが強力な平気で、膨大なエネルギーが必要だとすぐにわかった。
初めに見せられた時、忙しくて覚えていなかったふりをしたのに、自分は今思い出して理解してしまったんだ。
あれのエネルギー源を何にするかなんて、予想はすぐに成り立ってしまう。
「こわ……」
久しぶりに震えが出てきた。
理解はできる。あの人があの人なりにレイのためにできることをしているのも、自分らと一緒に戦っていくためにしてくれることも。でも怖いと思ってしまった。そっか。そうだよね。味方だから忘れてたけど、管理人も研究者の人たちも結構酷い人ばかりだってこと、自分はよく知ってるのに。
でも、優しい人もいるからつい、矢辺さんもそっちだと思ったけど、そっか……目的の為に手段を選ばない。自分にはできないことだ。
自分は選択が苦手だから、全部どうにかしたいと思ってしまう。レイの元で生きるようになって、大体それがどうにかなっちゃったから全部どうにかできるって思ってたけど、本当はそんなに甘くないってことだよね。だって、全員が幸せになるになるのは不可能。
忘れてた。自分はつい決断をしないで指示を貰って動き続けてるから。
「怖い」
怖いけど、自分も守りたい人たちがいるから逃げてる場合じゃない。そうだ、自分もできることがもっとある。
よし、いいアイデアが降って来たぞ。まだ時間はあるし、すぐに作業に取り掛かろう。きっと、自分も戦える。
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俺は俺の能力が嫌いだ。青鎌に利用されてきた力、ルカに利用された力……利用ばかり。でも、この力で戦えるなら、守れるなら向き合おうと思えた。今更使い始めたこの「人形」とかいう能力ははっきり言って胸糞悪い。死体遊びみたいなものだ。
使うのが嫌で嫌でしょうがないが、守るためなら使える。
もし、ここに三月がいたらきっとバカみたいに笑ってかっこいいだとかそういう誉め言葉をくれるんだろう。能力についての説明だけですごいなんて言葉が飛び出してたくらいだ。
あいつは馬鹿だ。かっこよく見せようと最大限の努力をするし、考えずに飛び出す。無邪気とも言えなくないが、やはり俺は馬鹿だと思う。あいつの中にあるのはレイへの絶対的忠誠心。馬鹿だよ。
見返りも求めず、ただただレイを追いかけて、能力をレイのために生かし続けた三月という奴は馬鹿だ。レイのためなら死んでもいいとさえ言っていた。今、あいつは死にかけてるじゃないか。本当に馬鹿だ。
死んだら何もできない。生きてレイの側にいる方が、鬼呪一天の一人として生きていく方がよっぽどレイの役に立てるのに、俺のことを置いて行って、人質だって?やっぱ馬鹿だよ。
俺もすぐに行けてればよかった。
捕まってここにいない奴に何をいってもしょうがないのは知ってるけれど、一番組んできたお前にどうしても言っておきたいんだ。
「死ぬなよ」
馬鹿なあいつに救われてたなんて、今更気づく私の方が馬鹿だ。




