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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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前夜録①



 三月の人質の件は医務室にいた俺やソウも知ることとなり、今後救出に関しては重要であるとともに、慎重にとのことで、明日は中心街で戦うメンバーと敵陣偵察組に分かれることとなった。


 それらを伝えに来たのは紘で、レイは矢辺さんや勝井と情報の共有や武器の調整をしているらしい。できれば、今夜少し話せたらと思ったが…そうはいかないだろうな。レイは忙しい。


 俺はこのまま医務室で寝ることにしたものの、なかなか寝付けなかったから、仕方なくピアノを弾く。


 何の曲か知らないが、ずっとずっと記憶にある懐かしい旋律。落ち着かない時はこれに限る。部屋にならいいピアノを置いてるが、今は自分出したこの鍵盤で弾く。音も小さくできて、向かいのベッドで寝てるソウにも迷惑はかからない。


 振り返ってみれば、俺がここにいることは不思議だ。ただ平和に生きたくて、進んできた道の先にレイがいて、UNCの平和のためという目的に共鳴した。今もそれは願ってるけど、今の俺はただそれだけを願って戦ってるわけじゃない。そしてそれは俺だけじゃないと思う。


 皆この場所に集まるまでにいろいろあった。それから平和を願い、出会った仲間と生きることを望み、自由を望み、本国にあるという「普通」を夢見てる。誰も口には出さないけど。


 UNCに生まれてしまえばこの道は避けられない。だからこそ、皆望みを持って争うわけで……僕も最初はただ負けたくなかった。負けたくなくて喧嘩もしてみたけど、勝ったところで上はいるし、どこまでいっても「自由」になれなかった。皆そうだったと思うけど、レイはどうだろう。これまでレイの過去もたくさん聞いてきた。ずっと不思議だと思うことが一つある。


 レイが外に目を向けたきっかけ……レイは本国についてよく知ってる。UNCの解放だけならそこまで知らなくていいのに、レイは本国以外の国のことも知っている。それほど外に関心があるのか、勉強熱心なだけか……別の目的があるのか聞けたことはない。ただ俺は学ばされただけ。


 レイは目を輝かせていたと思う。でも俺はそれほど楽しく聞いてたわけじゃない。俺にとってはここでみんなと過ごせればそれでいいから、外の国の事情がどうでもよく聞こえてた。


 こんな前夜に話せないなら、聞いておけばよかったな。


 伝えるべきことも何も言えてない。


 明日もみんなが生き残れますように。


************


 三月を人質にしたうえに、僕が戻ってきているのを知った双燕はもう、大人しくお城で待機しているわけがないだろう。表に出てくる。直接対決かもしれない。それはそれで好都合だが、三月のことが心配だ。もしも、もう殺されていたら?



 これから殺されてしまったら?


 そうあってほしくない。けど双燕が殺さないはずない。


 利用したら後は捨てるのだから。捨てられる前に、助けるしかない。そうだ、早く助ければきっと……


 ため息が出る。


「おいおいそれは何のため息だ?」


 振り返ればそこにはルカがいた。


「なんでここに?」


 ルカは樹さんと一緒がいいと言ったから偉人方と野宿を選択していた。偉人方ように部屋も用意できたのに、あの人たちは森のどこかで過ごしてる。曰く、いち早く異常に気付けるからだと言っていたが、その実、彼らは眠れないからではないか思う。


「駒場に傷診て貰ったんだよ。明日は万全じゃねぇと困るからな」


「その寄り道にしちゃ回り道じゃないか?」


 ここは屋上。寄り道にしては遠い。


 ルカは僕に甘酒の缶を投げつけてきた。僕の好物を覚えているのは意外だ。しかも製造元まできっちり。


「でかい戦いの前は興奮して眠れねぇから遠回りするくらいがいいんだよ」


 真意はわからないが厚意を無下にする真似はしない。今は双燕を前に結託している仲だ。ルカも最善手を選べる人間として裏切りという愚かな行為はしない。


「ずっと聞いてみたかったことがある」


「へぇ」


 ルカが人に興味を?


「鬼波零斗は昔から狂ってやがる。最弱が四天王に、今や泣き虫がこの戦争の代表の一人だ。俺様ならわかるが、お前がそこに立つ理由はさほどねぇ。樹炎の連中も他所の連中もみーんなお前のことをなんて言った?まともに知らねぇで簡単に噂を信じた。お前を殺した連中を助ける価値があるか?」


 サングラスの奥の目を久しぶりに見た。こうして二人で話すのはルカを千殊さんのとこへ送った時以来か。その時もルカは昔話をしてた。少し昔のルカに戻った気がして僕は嬉しかった。今も、こちらを見る目は昔と同じ。


興味、か。


「ルカ、外にはこんな島より大きい国があるって知ってるか?」


「はぁ…?」


「外には僕らの知る船よりでかい船も、でかい銃もある。スマホという薄い板の連絡手段もあるんだそうだ。この島に入る技術は必要なものだけ。外の世界はもっとくっだらない技術もすごい技術もあるらしい」


「それが質問とどう関係ある?」


「外の世界、気になるだろ?」


 本国よりさらに先には山があり、その向こうにはまた国があってその先にもずっと続いている。僕らの知らないことも向こうにはたくさんあって、争いがないところばかりらしい。汚い部分もあるけれど、平和と言われる世界があって、見たこともない景色が広がっているとか。


「ここにいるから僕らは戦って生きるしかない。戦うから、失って、奪って憎み合うことしかできない。もっと僕たちは自由な存在のはずだ。だから外へ行ってみたいんだ」


「俺らはUNC。外に出たところでまともに生きられやしねぇよ」


「かもね。だからこそ僕はここに立つんだ」


 ルカはわけわからんという顔をしている。


「僕は、UNCの国としてみんなで外に出てみたい。世界は偉大だよ。争いがくだらないって思うくらいに」


「……ほんとイカレてんな。外を知ったって全員変わるってわけじゃあねぇのに」


「わかってるって。でもUNCには選択肢がいる。僕がそれを提示する。そのためのこの場所だよ」


「一生理解できねぇよ。ま……精々俺様に殺されるまで死んでくれんなよ」


「はいはい」


 ルカは、じゃあなとだけ言い残して飛び降りていった。森の中で微かに揺れる火。多分あそこがロミさん達のいるところで、ルカも過ごす場所。


 ルカの奴、もしかして励ましにでも寄ったのか……?


 どうであれ、少しだけ冷静になれた。そこだけは感謝しよう。


 そういえば千殊さんとの修行がどうだったか聞き損ねてるな。まぁ、聞いたところで答えてくないか。――あいつは努力家ということを隠したがるからな。


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