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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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人質


 レイが戻ったことは、拠点に帰る頃には鬼呪一天内全てに広まっており、俺と戻ったレイは出迎えられてお祭り騒ぎ。俺はすぐに手当てのために医務室の方へ運ばれたけど、レイは食堂へ連れていかれておかえりなさいパーティーを開かれている。誰の案だったか覚えていないが、確か誰かが言い出して、死んだふりをなんてしてくれちゃった総長に文句を!と勢いづいていたのは覚えている。


「駒場はいかないの?」


「行けると思うわけ?」


 無言での手当がなんとなーく気まずくて言った一言が余計気まずくさせた。そもそも駒場の顔が険しくて気まずいわけで、そんな顔しないでくれたら俺も余計な口を滑らせることなく黙って手当されたのに。


 でも、こんな顔は当然なのだろう。駒場は誰よりも仲間の傷ついた姿を見ている。死んで欲しくないから治療を行ってくれる駒場だけど、本当は戦争で治療をするのは好まないのは知っている。無限に続く不死の兵隊の核になれてしまう駒場は、それを嫌う。それでも今この戦争で皆を助けるのは、駒場もまた、戦争そのものを終わらせる未来を望んでいるから。仲間が、大切だから。


「でも、今日はレイが戻ってきたんだよ…少しくらい…」


「レイだからよ。私は会えない」


「え…」


 なんで、と問おうとしたが、その顔を見たら理由は直接脳に叩き込まれた。


「今会ったら…怒りで殴りそうなのよ…!」


 俺は不機嫌ではないことに安心しながらも、ハハッと乾いた笑いを漏らさずにはいられなかった。


 まぁ気持ちはわかる。俺も殴るつもりでいた。いたけど結局、ああやって来られると殴れないし、その気も失せた。とはいえこれは俺だけの話。他の皆の思いはわからない。駒場みたいに内心で怒りを煮え滾らせている奴はいるかもしれない。それはそれ。レイの作戦が酷かったんだから自己責任。


 あれ、とそこで思考が止まった。


 俺が見てない、聞いてない存在がいる。レイが戻ったなら、誰よりも喜ぶやつが一人いるはずだ。


「…ねぇ、三月は?」


 三月はどこにいる?


「そういえば見てないわね。今日一度も医務室には来てないわ」


 そんなのはあり得ない。三月の相手はスナイパーだったという。昨日だってそれなりに傷を負って戻って来たのに、無傷で終われたというのだろうか。戦場で無傷なのは偉人方ぐらいで、それ以外皆医務室に一旦戻って来る。紘もそれを見越して医務室の近くにカメラを置いて、誰が戻ったかをチェックしてたぐらいだ。見ていないということは―――――


 丁度その頃、食堂ではレイのおかえりパーティーと文句をそこそこに終わらせて、報告会がされていた。勝利を飾り、仲間の増えたいい話もあれば、不穏な動きも残された報告。だが何よりもレイが皆に告げるべきことが一つあった。全体の報告会が終わって、最後にレイが口を開いた。


「まず…本当にあんな作戦をやって悪かった…時間を作るのに有効だと思ったんだが…これについては散々文句も説教も受けたから、今日の活躍に免じて流してほしい」


「自業自得だ。責められ足りないぐらいだろ。ガキ共、もっと言ってやっていんだからな」


 勝井がレイの逃げを睨みつけて言うと、レイはせめて後にしてくれと肩を窄める。


「えーと、それとありがとう。一々言ってたら足りないくらい、ありがとうって言うことがある。こうして帰ってくる場所があったことが何より嬉しかった。でも、その中で悲しいこともあるんだ」


 レイは一度言葉を切って、口をぎゅっと結んだあともう一度口を開いた。


「三月が人質になった」


「え、でも向こうからは何も…」


 紘が電波の受信記録を振り返って困惑している様子を見せた。


「何もない。でも、師匠が皆に渡したバッジは効果軽減だけじゃなくて、位置情報も付いてる。現在の三月の位置情報は敵の本丸だった。三月が裏切ったわけではないなら、人質にされたとしか思えない」


 そこへ秋崎が手を挙げて入った。


「こんな確認はしたくないが、多分他じゃ聞けないからな……生きてる保証があるのか?」


 その言葉に食堂のハッピームード一瞬にして凍り付いた。誰もが頭の隅で思っていた言葉。想像してしまった可能性の言語化。仲間を信じる鬼呪一天の面々では絶対に口にできない事項。


「俺だって心配だ…でも死んでしまった奴の為に他の仲間の命を懸けることはしちゃいけない。」


 秋崎の言うことは指揮者としてもっともなことだ。レイなら突っ込んでいきかねないということは、仲間になった身である秋崎には容易に想像できていた。それが、死体であれ生きた人間であれ、レイは見捨てないと。だからこそ、行動の前に明確にしておく必要がある。

レイはそうだな、と呟いた後座っていた席を立って一人一人を見渡した。


「三月は今のところ生きてる保証がある」


「示せるのか?」


「師匠の配ったバッジは生者にしか機能しない。位置情報もだ。だから生きていることは確実だ」


「なら助けに―」


 田中が言いかけたところに「それはできない」とレイが言った。あの、仲間の為なら馬鹿をもするレイが、だ。


「何故…」


「生きていれば機能するんだ。わかるか?」


 田中はわかっていなさげだが、そこへ真壁が「転生の可能性」かと口にした。

今日の真壁は石崎に支えられながら食堂まで登って来て、それなりに動いていた。報告会もしっかりと聞いていて、状況は把握している。そのうえで、レイの考えを読み取った。


「でも、三月に付けたんだろ?なら三月は生きてるんじゃないか?」


ルアがそう言ったが、矢辺が「三月タカとは限らない」と言った。


「自分が確認した時にはもう浜光塔だった。自分が確認してない間に、もしも転生が済んでいたらそれはこの位置情報だけじゃ確認のしようがない」


「そういうことだ…生きてる確証はあるが、三月かどうかわからないんだ…」


 誰も、何も言わなかった。レイの悔しさでいっぱいの顔を見たらその気持ちが痛いほどわかるから、何も言えなかったのだ。

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