異常者
レイが現れる直前ジャックと出会ってしまったソウもなんとかやっていた。何度攻撃に鋼を伸ばそうとも、まるでそこに伸びてくることを読んでいたかのようにジャックは見事に躱しきった。骨があるはずの場所までも折り曲げて全てを避けてしまう。
さらには、避けながら確実にソウとの距離を詰めていく。ソウは距離を取るために、どんどん下がっていた。同時に、心の中で焦っていた。
「眼帯くん、逃げるなよ~」
ジャックが蛇のように体を曲げて鋼の雨を抜ける。
「てめぇがこっち来てるからだろ!」
「もしかして俺と戦いたくない?」
ジャックは急にしおらしい顔になって、ソウの目をまじまじと見つめた。
「好き好んで狂人と戦う趣味は持ってねぇ」
ソウが馬鹿が、と言って答えると、ジャックは急に止まって、鋼の一撃をわざと受けた。
その行動に当然ソウは驚いたが、攻撃の手は緩めなかった。
「おかしいな…邪神のソウは戦闘狂だって、聞いてたんだけど」
「へぇ、双燕か?」
「双燕様、俺に強い奴を先に教えておいてくれたんだ。お前も言ってたけど、俺の本命は―」
ジャックが告げようと言う時、「俺様だろ!」と大きなハンマーがジャックの頭上に降ってきた。
「ルカっ!」
ソウは咄嗟に鋼を抑え、ルカに当たらないようにしたが、危うく貫くとこだった。
「よぉソウ。俺様も戦線復帰したぜ」
「樹さんやったか!」
樹から、月森という人物によって囚われていたという話しはソウも知っていた。
「あぁ。そんで駒場に世話になって戻ってきた。インカム置いてったお前に連絡係も兼ねてな」
ソウは置いてきたことに今更気づきやべっとは零したものの、次の瞬間にはまぁいいか、となる。
「で、伝言だけどよ、ルアが目覚めた」
ソウは一つほっとしたのだが、ルカがまだ何かありげな顔をしていた。
「まだあんのか?」
「あぁ、とても最悪のな」
「最悪」と聞いてソウは自然と体を強張らせた。誰かの訃報か、はたまたもっと、聞きたくないようなことか、ほんの一瞬の間にいくつもの不安が沸いた。
「鬼のご帰還だぜ?」
一瞬、言われたことがわからなかった。だが、脳に到達すればソウにとって最悪という意味がよくわかった。「最悪」それは、ルカにとってのレイという鬼の帰還であり、ソウにとっての最高だ。
「じゃあ、俺も早く帰らないとな」
「あぁ。花火が上がっても帰らないこいつはきっと、あの貴族軍様だろ」
ルカはハンマーを背負い、立ち上がってきたジャックを見ていた。
「今の、痛かった。お前がルカか?」
「俺様がUNC最強のルカ様だ。お前の本命だろ?」
ジャックは嬉しさのあまりなのか、両手に持ったままのナイフを振り回して奇妙な踊りを始めた。
「最強くん、最強くんのお出ましだぁ。双燕様ぁ俺は終わったら帰りますよぉ」
ルカもソウも気味が悪いと珍しくアイコンタクトで会話が成立するという奇妙な現象が起こった頃に、ジャックの踊りは終わった。
ピタリと止んだ踊りの代わりに、片目が黄色く光って「紅月出づ刻、我が勝利なり」と低く、かすれた声で言った。
直後、ジャックの持っていた二本のナイフの刀身がいくらか伸びて、さらに鋭利なものに変形した。
「あいつの能力は?」
「今判明してるだけで三つ。武器変形、空中遊泳、神速…まぁ、あってるかは知らねぇが」
ルカは意外にも冷静に聞き入れ「ならまだあるとみて戦った方がいいな。」と判断を下した。
こんなルカのことを誰かがみれば、あのルカがというのがあるのだが、四天王はただ強ければなれるというものではない。誰もがルカは荒くれ者で、傲慢な独裁者だと思っている。けれど本来、そんな者は四天王になれない。それだけじゃ足りないのだ。
「ソウ、俺様はお前を強い奴だと思ってる。失望させてくれるなよ」
「ハッ、そっちこそ、最強を語るなら足引っ張んなよ」
ルカとソウ。樹炎が誇る、四天王の二人であり、どちらもただの愚か者ではない。
「最強くん、眼帯くん長生きしてくれよっ」
ジャックの腕が伸びて、一気に振り下ろされた剣が地面をたたき割った。
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こいつは、異常だ。
そう結論づくのに時間はそれほどかからなかった。四天王二人が組んで戦い、さらに言えば、それなりに強いという地位を確立してきた俺達二人が戦う中、この男は笑いながら血を流して動き回っている。
俺とルカが痛みに倒れる瞬間があっても、男はいたっ、と叫ぶだけですぐに起き上がってくる。
「こいつ人間なのか?」
ルカが顔をしかめて言った。ルカの片腕は既に折れていて、俺の鋼で固定している状態だ。
俺は骨折こそないが、肩をあいつが作り出した巨大な針山に貫かれている。そこもまた鋼で仮止めしているものの、感覚が薄く、このまま戦えば戻せなくなるのではないか、という不安すらあるほどだ。
「人間やめてんだろ」
ルカの問いに俺は精一杯苦笑して答えてやった。
「最強くん顔色悪いよ。ねぇねぇ、もう終わり?まだ俺全然だけど」
このジャックとかいう男、完全に人間をやめている。俺は確かにあいつの足の関節を砕いた覚えがある。にもかかわらず、あいつは両足でしっかり立って俺達を襲いに来る。
「おい」
俺達が戦っているところへ、知らない男がまた現れる。
「ジャック、探したぞ。お主、花火が上がったのを知らんのか?」
男は俺達に気づいていないのか、構うことなく血を流すジャックにだけ意識を向けていた。
「…俺はぁ、最強くんたちと戦ってるんですよ。それが終わったら帰ります」
「そうはいかん。双燕様が我々をお呼びじゃ。全員集合、とな。今すぐ戻ろうぞ」
ジャックは大きく息を吸って二、三秒すると「わかりました」と表情から気味悪さが消えた。
「最強くん、眼帯くん、また遊んでね~」
男の作った竜巻に乗って、俺達の前からジャックと男は消えていった。
敵の気配が消え去って、俺もルカもようやく深呼吸ができた。満身創痍という言葉が似あうほど、俺達は怪我を負い、正直拠点まで戻れるか怪しい。
『ルアが迎えに行くからもう少し待ってて!』
いつの間にか倒れた俺達の元に来ていた一機のドローンから紘の声がして、その後すぐに、俺の目には青い髪が映った。
「よぉ寝坊助。あんまり遅いから心配したぜ?」
「そんな状態で言われても全く悔しくないが」
やって来たルアは俺達の容体を確認してすぐに、拠点へと運んだ。ルカは駒場の方へ、俺は絋の方。
「ルア、そういえば聞いたか?」
義足が少し壊れたことで手術室に入ることになった俺は、ルアを呼び止めた。
「俺ら無事また揃ったみたいだぜ」
ルアは「あぁ、そうらしいな。」と知っていたようで、俺としては驚く顔をみれなくて残念だった。
それでも、呆れたような優しい笑みを浮かべた兄弟をみれれば十分だろう。
俺が起きたらきっと、俺達は揃っている。そう、信じて疑わない。




