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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
89/93

強者

 レイが激戦となっている場所へ向かうと同時に、一条を封じることに成功したソウもすぐに向かっていた。また、ほぼ同時に浜光塔から飛び立つ影が一つ。


「あ?」


「おっ」


 ほぼ同時に出された声。クルが張ったフィールド内にいるソウと外にいた男、その二人は出会う。


「お前貴族軍だろ。ぜーったいそうだろ」


 ソウは長い髪のボロい服を着た男を見た瞬間そう言った。その姿はどこか囚人のようで、両手には引きちぎったような鎖がある。


「強い奴がいると思ったらお前?なんか違う気もする……」


「強いのは俺だ!」


 ソウはムッとして返したが、その直後にナイフで間合いを詰められた。


「じゃあ勝負だ。俺はジャック。ずーっと強い奴を待ってた」


「そういうタイプの奴かよ…!」


 なんとか再び距離を確保し、状況を冷静に見る。


************


 激戦だと言われていた場所は、確かに色んな音が激しく響いてはいるものの、クル一人で相手しきれているという現状。もう少し耐えてもらえれば、ソウも加勢できると考えた。


 一瞬、クルとソウの目が合って、ソウはフィールドを飛び出し、ジャックに向き合った。


「俺が相手してやる。来い!」


 ソウはせめてクルに迷惑をかけないよう、距離を取ることにし、走り出した。ジャックもそれは賛成のようで、何も言わずにソウについて行った。


「さっきの、お前の仲間じゃないのか?」


 辻先が遠くから言ったが、クルは何も言わずにただ笑った。


「辻先殿、おそらく彼の仲間は彼を巻き込まないようあの男を連れて行ったんだ」


 華奢な見た目をした人物が言った。


「ほう…だが無意味なこと。もうすぐ高坂殿が来るそうだ。そしたら決着も着く。彼は強い。これだけ耐えているのだから。我々も彼の相手をしたということを誇りに思い、全力で討つ」


 先頭に立っていた辻先より前に出た男。死神とも呼ばれる貴族軍の一員で、昨日の戦いでソウを圧倒した念仏らしきものを唱えていた男である。


「私は江東獅都。お前に敬意をもって戦う。どうか、安らかに死ね」


 江東を先頭に、辻先が続いて、クルへの集中攻撃が始まった。


 どんなに優れた強さを持つ人間でも、自分の限界を超え、圧倒的戦力差を埋めることはできない。

一人は倒しきることができたクルだったが、高坂の参戦で五人を相手にすることには変わりなく、とうとう膝を着いた。何か所か出血した場所からは、血が滲み、服を赤に染めている。


「素晴らしかった。最後に名前を聞いておこう」


 江東が感激したように涙を流す姿を、他の四人は黙って見守っていた。

あの辻先すらも大人しくしている。


「江東、その人が津宮来木だよ」


高坂が教えた。

すると江東は「そうか。」と言って微かに微笑んだ。


「では津宮、見事だった。さらば」


 江東は笑顔でトドメに、と巨大な岩石を作り出して、クルへと落として行った。激しい轟音は、岩が砕けるのはもちろんだが、岩にしては少しおかしな音を含んでいた。ガラスに近いものが割れるような音で、それよりももっと固い何か。少し煙が晴れて、五人の視界の一部には青白く反射する光が入った。


「五対一……人としてどうなのか問いたいところだが、よくよく見れば辻先以外、人間やめてたな」


 見えてきたのは、氷の巨壁。見事に江東の岩石を砕き、クルを守り切った。

クルの前に唐突に現れた氷の巨壁はその声が響いて、一気に消滅した。消滅と共に蔓延していた煙が晴れると、クルはいつの間にか移動しており、目の前には銀髪を揺らす背中がある。


「ほんと……あまりの酷さにおちおち三途の川も渡ってらんなくて、戻ってきたぞ」


 五人、特に目の前で飛び降りていくところを見た辻先は大層目を疑い、その人物を見つめた。


「なんで、お前が…死んだんじゃ?」


「亡霊!?蘇ったのか!?」


「うっさいな。簡単な話だろ?今目の前の現状が全て。さっさと双燕に言って来い。今日この瞬間に、あの世から僕が舞い戻ったってな!」


 レイはそう言って五人を目の前から消した。


「遅いんじゃないの…?」


クルは責めるわけではなく、ただ笑顔で言って立ち上がった。


「色々とあったんだよ。だけど、こっからは大活躍すっから許してよ」


「それは皆に言いなよ。本気で心配してたから」


 丁度、二人の上空には紘のドローンが飛んできて、レイはそのカメラに向かって手を振った。


************


『大変だよ!』


 紘の緊急放送。何事かと誰もが思い、次の言葉を待った。


『レイが帰ってきた!』


 館内に響いたその言葉が、言い切られる前に、拠点内は歓声や驚きの声で満ち溢れ、沈んでいた指揮も一気に上がった。

紘が拠点内のスクリーンにレイの手を振っている様子を映して、それが現実なのだと見せつけた。

紘自身、良かった、と目に涙を浮かべていて、病室でも丁度ルアが目覚めたということも合わさって、拠点はお祭り騒ぎ。


 クルとレイはそのまま激戦区となっていた戦場を駆け抜けて、国軍を相手に二人で暴れまわり、その後方で、ロミや樹の動ける戦闘員たちが北舞台などのエリアを国軍から奪取することに成功し、国軍の撤退の合図であった二度目の赤い花火が上がるまでに北東部以外の北部奪還に成功した。


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